tofubeatsと距離の方程式 [ CARELESS CRITIC ]
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tofubeats距離方程式

『STAKEHOLDER』
tofubeats
WPCL-12073 ¥1,500(本体)+税
2015/04/01
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日本のインターネット・レーベルが生んだ最大のスターとして、自主アルバム 『lost decade』 をオリコン・チャートの19位に送り込むと、ワーナー・ミュージック・ジャパン内のunBORDEと契約。メジャーへと活躍の舞台を広げたtofubeats。以降は森高千里を迎えた “Don’t Stop The Music” を筆頭にキラー・チューンを連発すると、メジャー初アルバム 『First Album』 をリリース。その後も宇多田ヒカルのトリビュート作品 『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について』 に参加し、SMAPの “華麗なる逆襲” にもリミックスを提供。憧れの人々を招き入れ、共に歩んできた仲間をフックアップし、ポップ・ミュージックの中心地へと一気に歩を進めたのが彼の約1年半だった。

だとするなら、今回の最新EP 『STAKEHOLDER』 は、そうした喧騒から一旦距離を置いて、彼のパーソナルな側面を強く打ち出した作品だ。ゲストは関西の朋友オカダダのみ。タイトル曲 “STAKEHOLDER” ではメジャー移籍以降のシングルとして初めて自身のヴォーカルをフィーチャーしている他、彼が本来得意としてきたクラブ・ミュージック的な要素が前面に押し出され、全9曲すべてに自然体の音が詰まっている。

そして、tofubeatsの音楽の最大の魅力は、そうやって彼が作品ごとに行き来する、振り幅の大きな距離の中にこそある。生まれ育った神戸のニュータウンから、ポップ・シーンの中心へ、世界へ、ふたたびパーソナルな空間へ。メジャー移籍後の活動から最新EP『STAKEHOLDER』までを振り返ってもらいつつ、tofubeatsサウンドの魅力を彼が辿ってきた“距離”から紐解く特別講義、開講です。

宇多田さんのトリビュートがあって
SMAPさんのリミックスがあって
そういう方面が満たされ過ぎて
今回のEPに繋がったところはあると思います
好きなものを一個守るためにも
こういうものを作ろうと思ったんです

tofubeats - STAKEHOLDERtofubeats - STAKEHOLDER

――メジャーに移籍してからもうしばらく経ちましたね。まずはどんな風に感じているかを率直に教えてもらえますか?

やっぱり、凄く楽しいです。もともと(メジャーに)行った理由も「行かないと出来ないことがあるんだろうな」と思ったからだし、行って出来なくなったことよりも、出来るようになったことの方が多いなって。自分だけで出来ることって、限界があると思うんです。それは森高(千里)さんとのコラボもそうだし、こうして色々取材を入れてくださることもそうだし。ひとりでは出来ないことをやらせてもらえてるなって思いますね。あとは単純に、大家さんとかに(職業を)言いやすくなったりとか(笑)。

――(笑)最初の森高千里さんとのコラボ “Don’t Stop The Music” も藤井隆さんとの“ディスコの神様”もそうですが、移籍以降の活動にはかなりの気合を感じました。昔から歌ってほしいと思っていた方々に声をかけて、ひとつずつ夢をかなえていったような印象で。

そうですね。そもそも、気合を“入れなきゃいけない”と思う部分もあったんです。プレッシャーもすごくあったし。今回のEPでやっと自分らしくいられるようになってきましたけど、“Don’t Stop The Music”も森高さんらしいものにしようと思って最終的にああなったものの、最初はもっとBPMが速かったりして。それが次の“ディスコの神様”に引き継がれていくわけなんですけど、歌詞のメッセージも自分で思っていたより強めになって、曲が出来て改めて自分の気負いを感じたりしました。

tofubeats - Don't Stop The Music feat.森高千里tofubeats - Don't Stop The Music feat.森高千里

――そもそも、シングルごとに豪華なヴォーカリストをフィーチャリングしようという方向性は、最初から決めていたことだったんですか?

それこそ 『lost decade』 の時に色々とやってみて、それがやっぱり「いいな」と思う部分があって。その気持ちには抗えないし、 Sugar’s Campaign と比べても思うんですけど――ずっとひとりでやってると、そこに他人を介在するのが難しいんです。でも、他人を介在しないと人にも届かない。ひとりで客観的なものを作るのって難しいから、僕はマスタリングを人に頼んだりしてアウトソーシングしないと、色んな人に届くものにならないんじゃないかと思ってて。それは「(人が)いっぱい要る」っていう意味じゃなくて、ただ「ひとりじゃだめだ」ってことなんですけど。

――ああ、なるほど。

『lost decade』 の時は、一番頑張ってホリプロの南波志帆さんが参加してくれましたけど、ホリプロと個人で取引したことのある人間がそれまでにいなかったみたいで、あれはあれで結構大変でした(笑)。でも 『First Album』 の曲も基本的にはそういう感じで、「森高さんを迎えたい」って言った時も、ちょっと難しいかもしれないけど、僕の担当が「まぁ、馬鹿の振りして一回訊いてみようよ」って打診してくれたんです。そうしたら、向こうの会社の方が僕のことを知ってくださってたみたいで、そういう縁にも恵まれました。藤井さんもデビューした時からずっと名前が挙がっていた方で、実現して本当に嬉しかったですね。この時も真正面からお願いして。そうしたら娘さんも僕の曲を聴いてくれたりして、僕がユーハイム(神戸に本店がある洋菓子メーカー)の菓子折りを持って吉本興業さんに向かって。

tofubeats - ディスコの神様 feat.藤井隆tofubeats - ディスコの神様 feat.藤井隆

――菓子折りを持っていくイメージ、ありますよね(笑)。

僕はそういうの、好きなんです(笑)。そうしたら藤井さんが「僕、昔百貨店のユーハイムで働いてたんです」って教えてくださって、「えっ、マジですか?!」って(笑)。その時、ちょうど藤井さん的にも「また音楽を始めようかな」というタイミングだったんですよね。 “She is my newtown” というシングルを出していて、それを僕は「みんな過小評価し過ぎてる」って激怒してたので、どうしても藤井さんを呼びたかった。またシングルが出るみたいなんで、“ディスコの神様”によって藤井さんのそういう活動にもう一度火をつけることが出来たのは凄く嬉しかったです。

――その後新井ひとみさんとの配信限定シングル“Come On Honey!”があって、 『First Album』 (と、後にそのリミックス盤 『First Album Remixes』 )をリリースしました。

『First Album』 はワーナーの人も異例というぐらい制作期間がすごく短かったので、本当に忙しくて、半分覚えてないぐらいなんですよ(笑)。よく間に合ったなって今でも思いますね。8月が締切だったんですけど、あの期間ってすごいカリカリしてました。

――その頃ってライヴも増えて、かなり忙しい時期だったんじゃないですか?

そうなんです。だから今回の『STAKEHOLDER』では、制作に合わせてライヴもガッと減らすことにしました。東京でのイベントも、実は今日が今年初なんです。去年はマジで忙しかったですから。年間100本ぐらいライヴをやって、その間にシングルを切って、アルバムを出して……。考えてみれば「そりゃそうか」って感じなんですけど(笑)。

――大型フェスにも出ていましたし、地上波のTV番組にも出演していましたしね。特に地上波の番組は「いよいよやばいことになってるな……!」と思いながら観させてもらっていました。

もう僕自身も、ほぼ半笑いでやってました(笑)。でも、そうなる可能性があるってことがメジャーの凄さだと思うんです。色んな方がプレゼンをしてくれて、結果そこにひっかかることが出来たんだと思いますけど、あのラインナップに加われるって凄いことですし。

――憧れの人にも会えたんですよね?

Perfumeさんが楽屋挨拶に来てくださって、 「お洒落なスタッフの方ですね」 っておべんちゃらを言ってくれて、 「tofubeatsにそんなイメージある?」 ってスタッフ一同困惑したり……。だって、こっちは学ランで出てるんですよ?(笑)。そうやって色んな方たちと会えたり、大阪城ホールに森高さんと一緒に出させて頂いたりして(他出演者はSTARDUST REVUE、TRF、ゆず、May J.、AAA、GENERATIONS from EXILE TRIBE、嘉門達夫など)、自分自身が「うわぁ、有名人や……!」って……。

――ははは!

そういえば去年の年末も、仕事納めが小室哲哉さんとの対談だったんですよ。それで、12月30日に小室さんと一緒に写真を撮ったりしていて、ふと「何かやばいところに来ちゃったな」って(笑)。今年に入ってからも年明け早々にまりんさん(砂原良徳)に会わせて頂きましたし。でも、「そういう人たちと一緒のところにいるんだな」というか、「一個段を上がれば一緒のところにいさせて頂けるんだな」っていうことが分かって、凄くよかったです。社会実験というか、シュガーズの2人も言ってますけど、「自分たちが行ってどうなるか見てみよう」という感じなんですよ。

――その上、宇多田ヒカルさんのトリビュート・アルバムにも関わることになりました。

いやー、本当にびっくりしました。晴天の霹靂ですよ。“宇多田さんのトリビュート・アルバムに BONNIE PINKさんをヴォーカルに迎えて参加する”という願ったり叶ったり感が異常過ぎて……! しかもBONNIEさんが、歌入れを10時間ぐらいかけてやってくださったんです。トラックも引っかかりなくすぐ出来て、それで「ヤバい……!」ってなって(笑)。依頼のメールが来た時は結構忙しい時期だったんですけど、断る選択肢はないと思って、昼にオファーをいただいて夜に返事を返すまでにもうデモを作りました(笑)。この仕事を逃したくないという気持ちで……!

tofubeats with BONNIE PINK - time will telltofubeats with BONNIE PINK - time will tell

――(笑)そして今年に入ってからはもうひとつの大きな仕事、SMAPさんのシングル“華麗なる逆襲”のリミックスもありましたね。

これは本当に勉強になりました。最近、「もう一段J-POPらしくする」にはどうすればいいかを考えたりしてるんですけど、そういう意味でも気付くことが多かった。それってもともと僕の中にはないものなんで。リミックスでもちゃんとしたディレクションがあったんですけど、ジャニーズさんのフィロソフィーというのがしっかりあって、ディレクションも的確で、修正が加わるたびに一歩ずつジャニーズらしくなっていくんです。ヴォーカルの扱い方であるとか、曲の展開であるとか、タイトに切り詰めて歌がないところを減らすとか……。色んな人が作ってるのに何であんなに統一感があるのかな?って思ってたら、「ああ、こういうことか」って。結局、僕はこれまで正道を歩いたことがなかったんです。だから、面白かったし、もの凄く勉強になりましたね。

ちょうど作っている時に
Huluで『フルハウス』の配信が始まって
時代にも合ってるぞ……!
みたいになったんです
みんなでビックリしたんですよ
「何で今なの?」って(笑)

――そして今回、最新EP『STAKEHOLDER』が完成したわけですが、きっと昔から聴いてきた人には肩の力が抜けた従来のtofubeatsさん的な音で、メジャー移籍後に知った人にとっては、新たな面が垣間見えるような内容になっています。この方向性についてはどんな風に考えていったんでしょう?

宇多田さんのトリビュート・アルバムがあって、SMAPさんのリミックスがあって、まだ情報解禁前なので名前はお出しできないですが、またひとつ大物の方の編曲仕事をやらせて頂いて……ちょっとそういう方面が満たされ過ぎて、それが今回のEPに繋がったところはあると思いますね。それに、「もともとこんなんやってたのに、そういえばメジャーに行ってからやってなかったな」って思ったんです。ちょうどそのタイミングで、スタッフの人たちも「『First Album』はパンパンにやり過ぎたから、ここで一枚好きにやりなよ」って言ってくれて。だから最初は色々悩みましたけど、結果的にこれだけソリッドな音になったのは本当に嬉しかったです。昔(石野)卓球さんがインストでシングルを切ってましたけど、そういう人って今はいないじゃないですか。だから今回は、インストに近いものでシングルを切って、インパクトのある映像で間口を作って、「まずは聴いてもらおう」、と。こういうものって、やれるようにしておかないとやれなくなっちゃうと思うんです。だから、好きなものを一個守るためにも、このタイミングでこういうものを作ろうと思ったんですよ。

――タイトル曲の“STAKEHOLDER”に関しては、最初から具体的な音のイメージがあったんですか?

候補はいくつかありました。でも、まずは(アートワークに株価のグラフを使用したインディーズ時代の自主アルバム)『lost decade』になぞらえて、力を抜くことの象徴として経済用語の“STAKEHOLDER”(=利害関係者)というタイトルが決まって。

――そのタイトルから連想していった、と。

この曲に関してはそうですね。抜けが悪いな、抜けが悪いなってずっと思ってたんですけど、マスタリングの一週間前に今の状態になったんです。最初はもっともっさりしてたんで、それを少しずつ直していきました。そうやって一曲に時間をかけるのって、本当に久しぶりのことでしたね。

――ちなみに、アートワークは『フルハウス』へのオマージュで、“STAKEHOLDER”の素材を使った1曲目の “SITCOM (Intro)” もその主題歌 “Everywhere You Look” を意識したものになっていますが……何でまた『フルハウス』なんですか(笑)。

“STAKEHOLDER”から連想するものって「家族でもあるよね」ということで、そこからフルハウス的なアートワークが上がってきたんです(笑)。あとは『フルハウス』からの連想ゲームで……。(アートワークを開いてサンクス・クレジットのページに記載されている文字を見せながら)これ、あの番組の最終回のオマージュなんですよ。『フルハウス』って最終回にカーテン・コールみたいな場面があって、「Our Thanks, Our Love」って文字が出てくるんですけど、「じゃあ、それ使いましょう」っていう話になって(笑)。それに、ちょうど作っている時にHuluで配信が始まって、時代にも合ってるぞ……!みたいになったんです。みんなでビックリしました、「何で今なの?」って(笑)。この曲は僕の師匠筋のミッツィー申し訳さんから90年代の音源(KORGのX5DR)を頂いて、全部それで作りました。だから機材も90年代のもので、当時の感じが出てると思いますね。唯一全部ハードで作った曲がこれっていう(笑)。

Full House OP(“Everywhere You Look”)Full House OP(“Everywhere You Look”)

――続く“Window”は『lost decade』のアウトテイクですね。当時から「何でアルバムに入れなかったんだろう?」と思っていました。

たぶん、当時は気分じゃなかったんです。こういう感じのビートの曲も既に入ってたんで、ちょっと違うかなって。でも今回、実はタイアップ的なものも決まっていて、それならやりましょうってことでやり直した感じですね。

――実は当時とほとんど変わっていないですよね? ヴォーカル部分が少し……。

厚くなってます。この曲はもともとよかったので、変わらないように意識したんですよ。実際には色んな音を差し替えたんですけど、それが分からないようにしていて。それで純粋に綺麗に揃えていった感じでした。たとえば自分の中で“朝が来るまで終わる事のないダンスを”が何で好きかっていうと、クラブ・ミュージックっぽい体裁を保ったまま歌詞を乗せてるからなんですけど、この曲も作った当時「こういうトラックにフル・コーラスを乗せられたところがいいな」って思ったのを凄く覚えてるんです。オカダダさんと話してても「これって何気に凄いよね」ってなったりしましたし。こんな風に上手くいくことって、滅多にないんですけど。

―― 一方、以前一度Soundcloudに上がっていた “dance to the beat to the” は、その頃とは全く違うものになっていますね。

全然違いますよね(笑)。この辺りはもう、ダンス・トラック。もともとは『First Album』の後に勢い余って作ってフリーで配ったんですけど、「ちょっと雑くやっちゃったな」と思う部分があって。ちゃんとやればもっとよくなると思ったんで作り直しました。原曲より躁っぽくなりましたね。展開が変わって、キーが上がって……みたいな感じで。

――そして次が “STAKEHOLDER -for DJ-” 。僕はこのヴァージョン、凄く好きなんですよ。

これは「サンプリングがしたい」っていう自分の欲を満たすために“STAKEHOLDER”の第5稿目ぐらいのパラデータをノート・パソコンに入れて、それだけで作った曲です。曲名も変えようと思ったんですけど、“STOCKHOLDER”とかにしたらややこしいなと思って、「いいや、“for DJ”で」って(笑)。

――昔サンプリングして作っていたような曲を、メジャーの舞台でやるにはどうするか、というアイディアですか?

そうです。メジャー・フィールドで上手いことサンプリングをする方法についてはずっと考えてて、これはひとつの成功例ですね。最近はコードとか歌とかを普通にメモしたりするようにもなりました。「自分がそんなことするようになるのか」って感じですけど(笑)。あと、“STAKEHOLDER -for DJ-”に関して言うと、ヴォーグのビートを使っていて、これは全部自分で作ってるんです。だから僕のシグニチャー・サウンドで、爆発音から自分で作って……。ヴォーグを使ったのは、安易にフューチャー・ベースっぽくしたくないっていう気持ちがあったからです。“STAKEHOLDER”も、一回盛り上がるパートが終わった後に急にストン!って落ちる感じですよね。 “dance to the beat to the” もガチャガチャガチャガチャしてて……日本っぽいものというか、「J-POPっぽいものを放り込んだらどうなるか」みたいなことを考えてました。ポップにするっていう意味じゃなくて、クラブ・ミュージックにJ-POPの要素を入れる、というか。たとえば “dance to the beat to the” にある、転調して戻るような展開って、本来クラブ・ミュージックではあまりやっちゃいけないことじゃないですか?

――J-POP的なものを追究してみたからこそ、今回はそこで得たものをクラブ・ミュージックに落とし込んでみようという?

そうそう。だから“STAKEHOLDER”にしても、本来分かりやすい曲ではないと思うんですよね。今回MVを派手にしたのも、僕らの負い目があったからというか。ビンでバシャーンッ!ってやってるのも、「それぐらいしないと見てくれないんじゃないかな」って思ったんです(笑)。まぁ、それはちょっと言い過ぎかもしれないですけど、「中は地味なんで面白くしてください」みたいなことはずっと言ってたんで。

――あと、“for DJ”の方では、バブルガム・ベースの要素も取り入れていますね。

倍速でキャッチーなメロディを乗せるという、安直なPCミュージック・オマージュです(笑)。前にパラ・ワンが日本に来た時に「ナンバーズ(QTでの活動もお馴染みのソフィーの作品などをリリースするグラスゴーのレーベル)がいい」って話をしたんですけど、彼らの何がいいって「クラブ・ミュージックに変なものを持ち込もうとしている」ところで。昨日リズがソフィーの書いた新曲をやってましたけど(恵比寿リキッドルームでのイベント「WE DO MUSIC」)、ああいう風に個性的であろうとする試みがいいなって思うんです。「その時に刺激的な場所にちゃんといる」っていうか。それに……そろそろJ-POPも次のフェーズに行こうとしてるんじゃないか、というのを最近思ったりするんですよね。「歌謡曲」があって「J-POP」があって、次の「何か」みたいな。今お約束のジャンルって、もうアイドルぐらいしかないですし、そういう時期に差し掛かってる気がする。だからそういう中間のようなものも作っていきたいな、と思うんですよ。僕は昔からそうですけど、最近特にそう思ったりしていて。今後、案外テクノとかが流行ったりするかもしれないし……。

QT - Hey QTQT - Hey QT

――この作品でも “(I WANNA) HOLD” がハウスになっていますね。6曲目の “She Talks At Night” は、どんなことを意識して作ったんですか?

この曲はAメロ、Bメロときて……サビがアレ(ヴォーカル・パートがなく、大音量でベースが鳴る)っていう(笑)。これはインディ・ロックの甘ったるい感じの曲をやりたいなと思ったんですよ。昔のトロ・イ・モワとかテニスとか。 “I'm Callin'” とか、めちゃくちゃいい曲だと思うんです。チルウェイヴみたいなものを噛んだ後のポップ・ミュージックっていいなって。

――テニスとかほんと、もっと人気が出ていいはずなんですよね……。あと、聴かせてもらって思ったんですけど、このタイプの曲のtofubeatsさんの歌詞ってだいたいこんな感じになりますよね。何て言ったらいいんですかね、こんな感じに……(笑)。

なりますよね……こんな感じに……(笑)。歌詞は語呂合わせで、思いつきなんです。寂寥感みたいなものが出てますね。

Tennis - I'm Callin'Tennis - I'm Callin'

―― “T.D.M.” はオカダダさんとの曲で 「The Disco Manufacturer (ディスコ製造者)」 の略だそうで。

これは明確に元ネタがあって、オカダダさんがよく言っているキッスの“べス”なんです。「べス、今日は音合わせがあって家に帰れないよ」っていう歌詞の珠玉のバラードですけど、それをディスコでやった、という話ですね(“T.D.M.”の歌詞も「曲作りをしていて今日も帰れない」という内容)。

KISS - BethKISS - Beth

――この曲があることで、メタな視点が加わりますよね。『STAKEHOLDER』を「こういう人たちが作ってるのか……」と想像出来るというか。

そうですね。後は、フル・コーラスちゃんとある曲を作ろうってことでもあります。だったら今回はプライベートな感じだし、関西(の仲間)だし、オカダダさんが一番いいかな、と。レコーディングも全部ウチでやったんですよ。オカダダさんが来て、メロディもその日に書いて。ポストプロダクションは何日かかけましたけど、曲と歌詞は朝集まって夜には完成しました(笑)。タタキは僕が作って、リズムはオカダダさんですね。

――今回、ゲストをオカダダさんだけにするというのは、最初から決めていたことだったんですか?

もう1人ぐらいお願いするんじゃないかとは思ってました。でも実際に進めていくうちに、「これでも聴けるな」って思って。あとは運試しじゃないですけど、世の中がどう反応するかを見てみたかったんです。もしこれが受け入れられたら調子に乗ると思いますし(笑)、受け入れられなかったら、自分が面白いと思うことをやっていくにはどうすればいいかをまた考えますし。枚数とかだけじゃなくて、買ってくれた人の反応もそうです。僕は買ってくれた人が満足してくれたかどうかが大事だと思うんで。EPと言いつつ9曲も入ってるのもそうなんですよね。マスタリングの人が「EPって聞いてたのに、(作業量的に)これEPじゃねえだろ!」って笑ってましたけど。

――(笑)そして最後の“衛星都市”は、昔からずっとやってきたニュータウンをテーマにした曲で、tofubeatsさん自身が歌っています。

この曲はたぶん別の誰かにヴォーカルをお願いして、次のアルバムにも入ることになると思うんですけど、このヴァージョンでは音の配置とかもちょっと変わったものになっていて、それをいびつなまま残してます。一見J-POPっぽいけど、完全に抗ってる曲というか。

――今回タイトル曲に自分のヴォーカルをフィーチャーしていることもそうですけど、自分で歌うことに対する意識は変わってきていますか?

やっぱり僕はいまだに好きではないですし、相変わらず上手くはないですし。でも自分で歌った方が、気持ちは完全に再現できる部分もあるし……。

――言ってみればブルースみたいなことですよね。技術ではなくてエモーションを伝えられるよさがあるという。

そうですね。実は今、色々な若い女性ヴォーカリストの人とコンタクトを取ったりしていて、自分にあたるそういう人を探してるんです。でも、これはウェブサイトとかを自分でやったりしてることにも通じるんですけど、人に頼んで博打するのと、自分でやって70点だったら、僕は自分でやることの方が得るものがあると思っていて。今も神戸に住んでいて、周りに頼める人もいなくて、器用貧乏みたいになってるからかもしれないですけど、自分でやるっていうことはひとつの解決策でもあると思うんです。

僕は世界も
「行って帰ってくる場所のひとつ」でいい
そうやって動かずに
旅が出来ればいいな
って思うんです

――なるほど。実は今日の取材で一番訊かせてもらいたかったことがあるんですけど、今の話にも顕著なように、tofubeatsさんってメジャーに行ったからといって、「メジャー・アーティストです」という感じがしないですよね。むしろ昔も今もずっと同じ場所にいて、「色んな場所に行って、帰ってくる」ということを繰り返していて。ただ、そうやって行ける距離がぐんぐん遠くなってきているイメージがあります。

それは僕の思ってる感覚と結構近いですね。そうあれたらいいなっていう理想というか。

――だからこそ、今回のEPの最後にこの“衛星都市”が入っているのは、すごく意味のあることのように思えるんですよ(「くりかえしの軌道から/遊びに連れ出して/終わりのないところから/飛び出すように」という、作品中最もパーソナルな歌詞を持つ曲)。

そうですね。そもそも、僕が何でニュータウンを好きかというと、自分の状態と似ているからなんです。“衛星都市”っていう考え方がまさにそうですけど、僕は「行って帰って、行って帰って」ということを大事にしているし、そもそもものごとをそういう風に捉えるのは、自分がそういう場所で育ったからだし。ハレとケ(柳田國男が見出した日本人の伝統的な世界観。「ハレ」が「非日常」で「ケ」が「日常」のこと)じゃないですけど、自分の中にそういう部分があるのは確かに感じます。だから、僕はJ-POPの仕事をいっぱいやると、 『STAKEHOLDER』 みたいな作品を作りたくなる。どこかで自然にバランスを取ろうとするんです。それに、行って帰ってみないと、実際の距離が分からないですしね。

――しかも、その行ける距離は、もはや国内に留まっていないです。リズやライアン・ヘムズワースとの共演もそうですし、 英BBC Radio 1Xtra の世界の若手トラックメイカーにとっての登竜門 『Diplo and Friends』 へのミックス提供もそうだと思いますけど。

でも、たとえば 『Diplo and Friends』 に出たからといって、人間が変わるわけじゃないってことは分かっておきたい。僕の好きな言葉があるんですけど、(石野)卓球さんが「大人ってなんですか?」っていう質問に対して「身の程が分かってることだね」って答えていて。自分自身が身の程を分かってるかどうかはさておき、音楽をやる上でそういうスタンスって素晴らしいと思うんです。だから、僕もそうでありたいなって思うんですよね。

LIZ - HushLIZ - Hush

――世界とのコネクションが出来つつあることについてはどう感じていますか?

自分がリズの曲を聴いて普通にいいなと思うように、向こうの人たちも僕の曲を聴いて「いい」って思ってくれるはず、という気持ちはずっとありました。言葉の壁や、共有できないものがあるから難しく思えるだけで、ネットとか共有出来るものが増えれば変わってくると思うし。そういえばこの間、 Tomad社長が(マルチネ・レコーズ関連の海外初イベント 『POKO Vol.1』 で向かった)ロンドンから帰ってきたんで、「どうでした?」って訊いたら、「あまり知らない曲がかかんないんだよね」って言ってたのが凄い印象的で。逆に Tomad社長がSMAPの“SHAKE”をかけたら、現地の人たちがビックリしたっていう(笑)。非英語圏とかはまた違うのかもしれないですけど、僕らが思っている世界って意外と近いんだな、とは思います。お約束がちょっと違う部分はあるけれど、それは日本の方がマイノリティですし。意外と普通に出来るんだなっていう感想ですね。

――最近世界の人たちも日本の音楽に興味を持つことが増えていますけど、それも単純に「選択肢として増えた/見えるようになった」という感じで。「自分はこうだけど」「へええ。こっちはこうかな」みたいに分かり合えるというか、その辺がかなりフラットになってきてる感覚があります。

そうなんですよね。 マクロスMACROSS 82-99 なんてブラジル人ですけど、誰もそんなこと気にしてないし。ライアン(・ヘムズワース)とのやりとりもそうですし、 “STAKEHOLDER” のPVを観た外国の人が、「かけたいから音源を送ってくれ」ってメールをくれることもありますし。だから僕は、世界も「行って帰ってくる場所のひとつ」でいいと思うんです。神戸から出ることもないし、海外のギグとかも普通に断ってて(笑)。

――はははは。

そうやって動かずに旅が出来ればいいな、って思うんですよ。それで、海外の人とももし気が合えばいいな、と。リズとやって、ライアンとやって、あとはまた見つかるのを待つだけです。

――仲間の人たちも世界との繋がりを作りつつありますし、そういう状況は今後もっと進んでいきそうですね。

僕よりもみんなの方がよっぽど海外向きですよね。 Seiho や Pa’s Lam System、 Banvox は思いっきりクラブ・ミュージックをやっているし。だから彼らに早く世界で売れてもらって、日本の時の恩でどうにかしてくれって思ったりしてます(笑)。僕はドメスティックなところを意識してやってるところもあるんで、まずは日本で頑張りたい。そこは役割だと思うんですよ。そして、役割はみんな違った方がいい。日本では僕がマルチネ・レコーズの鉄砲玉としてメジャーに切り込んで、ここまで来たわけですし。

――行って帰ってを繰り返していく中で、帰ってきた時の感覚って最初の頃と変わってきていますか?

今は行ける距離が遠すぎて……。TV とかに出て芸能人の方にめっちゃ会って、帰ってきて家でカップ麺とかを食べてる時に「あれ、夢だったのかな」って思ったりもします(笑)。遠すぎるからこそ、戻るのに時間がかかるというか、曲を作る状態になるまでに時間がかかるようにはなってきてる。でも今回の 『STAKEHOLDER』 は、まとまって制作期間が取れて……本当に、今までのどの作品よりも自分で聴いて一番しっくりくるんです。僕はよくカー・シェアリングしてハードオフに行くんですけど、その時間を音源のチェックにあてるんですよ。そこで “Don’t Stop The Music” とかを聴くと「FMっぽいな」って思うんですけど、今回の 『STAKEHOLDER』 を聴いてると、自分のものを聴いてる感じが凄くする。 

――「家で音楽を作っている時の感じに一番近い作品」という感覚ですか。

そうだと思います。あとは、“STAKEHOLDER” 自体もそうですけど、今回は作品全体のフィロソフィーとしても、「ローをカットしないでほしい」とか、そういうことを全部思った通りにやらせてもらって。だから “T.D.M.” とかも、音量がすごく小さい。大きくすると派手になるんですけど、今回はラジオでかかることとかをそれほど意識していないんですよね。それをやり切れたことが凄く嬉しかったです。もちろん、ポップなものも好きなので、引き続きやっていくんですけどね。(メジャー移籍後のシングルは)『lost decade』で一枚でやっていたことを3枚ぐらいに分けてやっているだけで、その全体としてバランスを取るということで。J-POPをやってる人もクラブ・ミュージックをやってる人もいますけど、バランスの取り方は人それぞれで、それがオリジナリティだと思うんです。だから僕は、自分が思ってる自分のオリジナルなところに決着するようにいつも意識しているし。それをやって、もう一個上がることが出来たらいいなって思いますね。たとえば、僕みたいな人間が1人いることで、誰かが「ああ、インスト出していいんだ」って思ってくれたら嬉しいですし、僕が年上の人たちにそう思わせてもらったのと同じようなことが出来たらいいな、って思うんで。

――今回スペシャル・サンクスの欄が 「All of my friends, families, and stakeholders」 になっていますけど、これも仲間やリスナーの人たちを含めた、 tofubeats さんに関わるすべての人のことですか?

まぁ、これはただの冗談です(笑)。最初に話したこととも繋がるんですけど、タイトルを『STAKEHOLDER』にしたのは、他人と関わることによって色んな解釈をされる余地があるからなんですよ。「何なんだろう?」ってみんなが思う言葉。それがいいと思ったんです。それに、ヒップホップ用語でいわゆる「Stakes Is High」という言葉がありますけど(デ・ラ・ソウルの曲名として有名)、それへのオマージュにもなってます。「ヒップホップ単語だなぁ」と思うんですよ。あれ(Stakes)も「掛け金」のことですしね。あとは……今回MVも全員20代の監督に手掛けてもらってます。なので、才気ほとばしる若手の競演を楽しんで頂ければ……!