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PARKGOLFパークゴルフ

“要点” と “展開” のポップ・ミュージック

『Par』 PARKGOLF
CD_PA058 Day Tripper
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インタビュー第3弾は日本のトラックメイカーからもう一組、北海道の札幌を拠点に活動するPARKGOLF。KREVAなどに影響を受けてインストのヒップホップを作っていた彼は、自分のPCを手に入れるとDTMを開始。Seihoが主宰を務める大阪のレーベル、Day Tripper Records初のデジタル配信曲となった“Kiss Me”では、iTunesのエレクトロニック・チャートで見事1位を獲得した他、さくらゆらや天川宇宙、DAOKOらと歌モノへもアプローチ。マルチネ・レコード関連の初海外イベント『POKO Vol.1』ではロンドンに向かうなど、海外にも活動の幅を広げつつある。

彼の楽曲の特徴は、要点の塊がユニークな形で組み合わさったポップ・ミュージック。間をたっぷり取った空間の中で、奇抜なフックや音が次々に連動し、図形が展開していくようにカラフルなテクスチャーが耳へとなだれ込む。その“レス”と“モア”を同時に存在させる不思議なトラックは、同世代の中でも構造的に飛び抜けてユニークだ。4月にはDay Tripper から、デビュー・アルバム『Par』をリリース。これまでの活動からその核となる部分をまとめた全15曲は、彼が「音楽を本気でやろう」と決意してから現在までのドキュメントにもなっていて、本作を紐解いていけば、彼のこれまでが分かる。そこで今回は、本人による全曲解説を掲載。『Par』を通してPARKGOLFを知る、そんなテキストを用意しました。

それにしても、PARKGOLFのアルバムが、『Par』。これはもしや、「ゴルフをしているところを撮影して」というフリなんでしょうか。いや、流石に安易すぎるかも。でも、見たい……!

結論:やっちゃいました。

ロンドンのイベントは本当によかったです
「世界と繋がった」
というのとも違うんですけど
「自分が好きでやってきたことは
たまたまどこに行っても
あまり変わらないことだったんだな」
って感じで

PARKGOLF – Par (Teaser)PARKGOLF – Par (Teaser)

――PARKGOLFさんはこの3月、『POKO Vol.1』(共演はbo en、Kero Kero Bonito、Spinee、Tomad、Seiho)に出演するためロンドンに向かいました。実際に現地に行ってみてどうでしたか?

現地の日本人のオーガナイザーの方が企画してくれたイベントだったんですけど、まず、ご飯が美味しくなかったです(笑)。

bo en - miss you
bo en - miss you

Kero Kero Bonito - Picture ThisKero Kero Bonito - Picture This

――そこですか(笑)。

フィッシュアンドチップスを頼もうと思ったんですけど全然分からなくて、適当にメニューの一番上にあるものを頼んだら、パンに味のついてないポテトを挟んで食べるものが出てきて……(イギリスでは定番の食事)、「もうポテト要らないわ」って……。

――(笑)イベント自体はどうでしたか?

DJの人たちは、日本とかけてる曲があまり変わらないな、という印象でした。それは僕たちが出演したイベントもそうですけど、前日に遊びに行ったアクティヴィア・ベンズ(スラガベッドが主宰を務めるレーベル)のイベントも結構そうだったんですよ。

HELLO FROM ACTIVIA BENZHELLO FROM ACTIVIA BENZ

――日本でやるのも世界でやるのもそれほど変わらないな、という?

そういう感覚はありましたね。「世界と繋がった」というのとも違うんですけど、「自分が好きでやってきたのは、たまたまどこに行ってもあまり変わらないことだったんだな」って感じで。ロンドンの中ではマニアックなイベントだったとは思いますけど、日曜日なのに最後まで残ってくれる人たちも結構いて、本当によかったです。2年ぐらい前に北海道のファッションやアートの展示会で台湾に連れて行ってもらったことはあったんですけど、それは音楽主体のイベントではなかったし、海外のクラブでやるのも今回が初めての経験でした。

――現地のアーティストとも会いましたか。

アクティヴィア・ベンズのイベントにはスラガベッドやガンジ(Gunge)がいたし、bo enの家に遊びに行った時は、ジャック・ダンス(Jack댄스)やPCミュージックから作品を出してるケイン・ウェスト(Kane West)たちがいっぱい来てて、みんなでピザ・パーティをしたりして(笑)。その時に、bo enが思うJ-POP、みたいな話もしましたね。それって「ロンドンの人たちが思うJ-POP」でもあると思うんですけど、「中田ヤスタカさんが群を抜いてトップ」で。たぶんPCミュージックも、その辺りの影響はすごく受けてますよね。

Perfume - Relax In The City (short ver.)Perfume - Relax In The City (short ver.)

capsule - グライダーcapsule - グライダー

――そうやって海外へも活動を広げつつ、同時に国内ではDAOKOさんのメジャー・デビュー作『DAOKO』への参加(tofubeatsのアレンジ曲“水星”“嫌”“ミュージック”の3曲を提供)を筆頭に、楽曲提供やプロデュースの仕事も増えてきています。

DAOKOちゃんの場合は楽曲を提供して、そこから意見を言い合って……という感じで、完全なるプロデュースではなかったんですけどね。でも、その前にさくらゆらちゃんとの“瞬間最大風速”や天川宇宙ちゃんの“イヤなコトはふっ飛ばしたい”(『平行宇宙マジカルプラネッツ』に収録)をやっててよかったなぁと思いました。その2曲で曲も歌詞も含めて担当したことで、自分のポップス/歌モノがどういうものか分かったんです。

DAOKO - 水星DAOKO - 水星

――やっぱり、歌が乗った時に、曲の構成や作り方に変化を感じる部分はありましたか?

歌モノではメロディのインパクトを大事にしたいと思っていて。「なんか覚えてる」感じというか、あの2曲に関してはむしろそこだけを意識して作りました。特に“瞬間最大風速”は自分にとっても初めての作業だったんで、「強い言葉を使おう」って色々考えてたら、最終的に残ったのが「瞬間」とか「最大」とかで……。

PARKGOLF - 瞬間最大風速(feat. さくらゆら)PARKGOLF - 瞬間最大風速(feat. さくらゆら)

――それをくっつけたわけですか(笑)。

そうです。実は、(完成版は)レコーディングした時の曲とは全く違うんですよ。最初にデモを上げて、「これで行こう」ということでレコーディングしたんですけど、後々ミックスして聴いてみるとイメージと違って。だから、当初は明るい4つ打ちだったんですけど、それを半分にして、メロディも落ち着いたものにして、最初のヴァージョンをリミックスしたような曲になりました。声だけはそのまま使って、あとは全部変えて。だから、実は原型が何も残ってないという(笑)。結果、それでよかったと思うんですけどね。

―― 一方で、今回リリースされたPARKGOLFさん自身のデビュー・アルバム『Par』についても、実は結構前から「作りたい」という話になっていましたね。

だから思いっきり出す出す詐欺みたいになってしまって……(笑)。もともとは13年の7月にマルチネからEP『CAT WALK』を出して、その3ヵ月後ぐらいに、“Kiss Me”と“Route 36”“Ghost”、それから特典のリミックス集の中に未発表曲として入ってる“WWW”の4曲が出来たんです。その辺りから「まとめたものを作りたいな」と思いはじめて、 14年の春~夏には出したいと思ってました。それでTwitterとかでも言ったんですけど、フタを開けてみたら、もう15年の4月で(笑)。まさかこんなに遅くなるとは……。

――外から見させてもらっていると、ライヴも増えて、徐々に活動自体が忙しくなってきたのかな、と思っていました。

確かにこの頃からライヴとかも徐々に増えてきて……。正直今までそんなことがなかったんで、状況が一気に変わり過ぎてついて行けてなかった部分はあったかもしれないですね。

Maltine 2.5D May 5, 2014 Park GolfMaltine 2.5D May 5, 2014 Park Golf

ここ最近はGIFみたいな短い動画とか
『ピタゴラスイッチ』みたいなものを
見ながら作ることが多いです
最近気付いたんですよ
「自分はこれをやっていたんだな」って

――さて、今回は『Par』の楽曲を1曲ずつ振り返ってもらいながら、この作品が出来ていく過程と、PARKGOLFさんのこれまでについて同時進行的に訊かせてもらえると嬉しいんです。まず1曲目の“QUEEN”ですが、これは静謐なピアノから始まるアルバムの導入部のような曲になっていますね。

僕はもともとインストのヒップホップをやってたんで、定番のBPM90ぐらいの曲も作りたいなと思ったんです。ライヴでも最初にこの曲をやることが多かったんで、最初から1曲目にしようって決めていた曲ですね。

――“QUEEN”というタイトルにしたのは何か理由があったんですか?

もちろん、考えている時は考えているんですけど……僕はタイトルを適当につけることがあるんです(笑)。これは曲名を考えていた時に、たまたま友達に借りていた、長澤まさみが出ている『IQUEEN』が置いてあって……。

――まさか……(笑)。

でも『IQUEEN』だと本当にダメなんで、「この曲は“QUEEN”だ」と(笑)。この後に作った“KING”という曲もあるんですけど、それは結局できなかったんでアルバムには入らなかったんです。2曲目の“Platinum Curve”は「BPM120の四つ打ち」みたいなテーマはあって、自分の中で苦手意識があるタイプの曲。結局、最終的にもあまり四つ打ちになってないですけど、最後のシンセの部分がうねうね曲がっていて、そこが「プラチナ・カーヴ」なんですよ。「この曲(のポイントは)そこだ」って思ってます。

――続く3曲目“Route 36”は、地元札幌の国道36号線のことですか。

そうです。僕の家から歩いて5分ぐらいで36号線に出るんですけど、そこをずっと下っていくと、中央区の大通りとか、札幌駅の市街地に着くんです。札幌ではイベントもその辺りであるし、札幌で集まるのはたいていその場所で。だから、これはその道の曲。最初は“North”っていうタイトルだったんですけど、それも北海道っぽいし、そこから連想した部分もあるんだと思いますね。

――これがアルバムを作ろうと思うきっかけになった曲のひとつだったんですね。

13年の5/31付で仕事を辞めて、6/1にINNIT Saporo(SeihoやAnd Vice Versaが設立に関わった関西のパーティーの札幌版)に出演して、それが終わってめちゃくちゃ時間があったんです。そのタイミングで沢山出来た曲のひとつだったんですよ。

――仕事を辞めたのは、音楽を本気でやろうという気持ちがあったからですか?

僕は音楽をちゃんとやりたいってずっと思っていたし、辞めないとやらないんじゃないかな、自分を追い込まないとやらないんじゃないかなと思ったんです。その時に(“Route 36”を含む)4曲が出来て。その中では一番メロディが強調されてる曲なのかな、とは思いますね。次の“Jewel”はアルバムの中でも最期の方に出来た曲。一時期、曲が全然できなくなった時があって、音数を本当に最小限にして一曲完成させようと思ったんです。だからこれは、ベースもほぼ使っていなくて、シンセとドラムと声ネタだけ。1曲通して声ネタを使ったらめっちゃしつこくなりました(笑)。

――(笑)ゲスト・ヴォーカリストを迎えようとは思わなかったんですね? 

それも考えたんです。でも今回は最初のアルバムだし、自分だけでやってみようと思って。トラックにしても、結構前からスパズキッド(日本のカルチャーからの影響も公言するフィリピンのトラックメイカー)と連絡を取り合っていて、「一緒に曲を作ろう」という話をしてるんですけど、まずは自分だけで、「アルバム本編にリミックスが入る」みたいなこともしないでおこう、と。(初回限定特典のリミックス集は特設サイトからダウンロードする形式)

Spazzkid - Spazzkid - "Truly" feat. Sarah Bonito

――なるほど。続く“CAT WALK”は“LUCKY”などと一緒に13年のマルチネからのEP『CAT WALK』に収録されていた曲です。当時、マルチネ周辺の人たち/リスナーの人たちの間でも、「北海道にすごい人がいる」という感じでPARKGOLFさんを発見していったような記憶があります。

確かマルチネからEPを出したのが、曲を作り始めて1年ぐらいの時だったんですけど、Soundcloudに禁断の多数決の“透明感”のリミックスを上げたのがきっかけだったんです。原曲を買って「リミックスをやりたい」と思って、iTunes限定のアコースティックVer.のヴォーカルを丸1日かけてめっちゃ刻んで(笑)。それでリミックスを作ったら、Tomadくんが反応して声をかけてくれたのが最初でした。あの人のディグ力ってちょっと意味が分からないんで(笑)、どうやって見つけてくれたのかは謎なんですけどね。でも、もともとマルチネの音源は好きで聴いてたし、これは出すしかないな、と思ったんです。

PARKGOLF - LUCKYPARKGOLF - LUCKY

禁断の多数決 - 透明感禁断の多数決 - 透明感

――当時から、マルチネの人たちは同じことをやっている仲間という認識だったんですか?

たぶん僕は、彼らよりもインターネットに触れるのが全然遅かったんですよ。彼らは中学とか高校から自分のパソコンを持ち始めたインターネット・ネイティヴが多いと思いますけど、僕の場合はそれまで兼用で、3~4年前に初めて自分のPCを持つようになった感じで。だから曲はハード機材で作ってたし、インターネットが本格的に自分に普及したこと自体が結構最近で(笑)。だから僕にとっては、当時沢山触れていった新しいもののひとつという感じでした。でも、(彼らがやっている音楽は)もともと自分がやってたインストのヒップホップと作り方が同じだったし、徐々にそういうものにも影響を受けた曲を作るようになったんです。

――その辺りを境に自分の音楽観が変わっていったということですか。

自分にインターネットが普及してからって考えると、めっちゃ変わりましたね。そもそも音楽を聴く量が変わったと思いますし。あのEP(『CAT WALK』)からは“LUCKY”も入れようと思ったんですけど、今聴くとインターネットの曲という感じがすごくするんです。でも今回はもう少し通して聴いてまとまりのあるものにしようと思って。だから“CAT WALK”を選びました。次の“If And When”は、今タイトルを見たら、これ……何だろう……。本当に謎ですね……(笑)。ジャズっぽいコード進行から、最終的に音頭みたいなビートになるところが気に入ってますね。

――続く7曲目の“Purple Pulp”は、BUDDHAHOUSE、QRION、Ninja Drinks Wine、DJ YENという北海道のDJ/トラックメイカーが集まったコンピレーション『VANDCAMP』(14年)に入っていた曲です。

当時、僕も含めてみんながバラバラの曲を作ってて、ちょっとずつ北海道の外でも知られるようになってきていて。だからひとつまとまったものを作ろうと思って、僕が提案してコンピを作ったんです。

ELOQ & Qrion - Beach 2.0ELOQ & Qrion - Beach 2.0

――あのメンバーとはどうやって知り合ったんですか?

僕とBUDDHAHOUSEは高校の同級生だったんですよ。と言っても、当時はあまり仲良くなくて……(笑)。でも、BUDDHAHOUSEが中学の頃からDJをやっていたところに、僕も高校の時に音楽を作り始めて、イベントにも遊びに行くようになって、そこでちょっとずつ話すようになったんです。YENくんとは、BUDDHAHOUSEと同じイベントに出ていて知り合いました。Ninjaくんはもともとバンド界隈の人ですけど、『FOGPAK』に参加していて、「あの人北海道の人なんだ」と思って。Qrionは最初iPhone(のアプリ)で曲を作ってて、Twitterでもフォローされたんですけど、最初はずっとおっさんだと思ってました(笑)。ツイートとかも内容がおっさんみたいなのに「女子高生だよ」とか言ってくるんで「絶対嘘でしょ!」って思ってて。

――はははは。

でもBUDDHAHOUSEやYENくんとイベントをやった時に、「門限があるんでちょっとしかいれないですけど、行きます!」って言ってくれて、来てみたら本当に女の子だったんですよ(笑)。それも大人しい子で。そこから、BUDDHAHOUSEとも「北海道のアーティストって少ないし、まとまってやっていこう」という話をしたりして、その5人で遊びに行く機会が増えたんです。僕らはたぶん、北海道にいなかったら一緒にやってなかったと思うし、ただそこにいたから集まった5人で。でも、その温度感がいいと思うんですよね。

――8曲目の“Woo Woo”はライヴの現場でもハイライトになる曲のひとつですが、使われている声ネタが思いっきり……。

「Woo Woo」って言ってます……(笑)。ライヴで映えるものを作ろうと思った曲なんで、アルバムからは外そうかとも思ったんですけど、Seihoさんが「何でも入れた方がいいんじゃない?」って言ってくれて、今回のアルバムで初めて僕の音楽を聴いてくれる人がいるなら、確かにそうかもな、と思ったんです。次の“Ghost”は、フューチャー(ベース)っぽいアタック感が強い曲。最初じわじわ入って、途中で変な声ネタが入って、後半スッと消えていく……。イメージできるかわからないですけど、僕の中では“Ghost”なんですよ(笑)。

――(笑)PARKGOLFさんはどんなことにインスパイアされて曲を作ることが多いですか?

最近はGIF動画とか、『ピタゴラスイッチ』みたいなカラクリ感があるものを見ながら作ることが多いですね。たとえば僕の曲の中で急に飛び込んでくるフックとか、変な展開とかって、結構そうなんです。これ、最近になって気付いたんですよ。「自分はこれをやっていたんだな」って。個人的に一番気に入ってる10曲目の“Sexual attraction”は、そういう「GIF動画を見て、その“状態”や“展開”の曲を作る」ということが一番うまく出来た曲。これは頭の中にはっきりと映像があって、「その(音付きの)PVを作った」みたいな曲なんです。

ピタゴラスイッチ ピタゴラ装置アカデミア 中級編ピタゴラスイッチ ピタゴラ装置アカデミア 中級編

――それってどんな映像なんですか?

すごく広くて、明るいところで、何か分からない目的地みたいなものに向かっていて。で、遠くから人がくるんですけど、それが人というより物体みたいな感じなんです。そもそも目的地に向かっているのも物体みたいなもので……。

――ああ、まさにGIF動画やピタゴラスイッチ的なイメージですね。

そうなんです。GIFみたいな短い動画って、必ず“要点”があるじゃないですか。ムダがなくて、すべてがその要点を表現するために進んでいく。僕はそういうものにすごく惹かれるんです。たとえばひとつ変な展開とか、いきなり飛び込んでくるフックみたいなものがあって、それに合わせて色んな要素が進んでいく、みたいな。曲の作り方としても、印象的なフックや展開を入れて、全体のバランスを見て「あとはこれをいれよう」とか、「これを入れたらここが変だから直していこう」とか、そういう風に曲を作ってるんです。「ひとつの塊(=要点)のようなものが連続して繋がってる」みたいな雰囲気は、自分で聴いても感じることなんですよ。

――“レス・イズ・モア”じゃないですけど、「空間を埋めない」「足りてない」「欠けてる」みたいなことが重要だという気持ちもありますか?

まぁ、「足りてない」というのとはちょっと違うんですけど、僕は他の人の音楽を聴いていると、時々「完璧すぎるんじゃないか」と思うことがあるんです。もちろん、いいことなんですけど、僕はもっと変なものを入れたい。それに、僕の場合、結構「自然に足りてない」みたいなところもあるんで(笑)。それが今のところ、PARKGOLFって分かってもらえるものになってるのかな、とは思いますね。

――続く11曲目の“Kiss Me”では、見事iTunesのエレクトロニック・チャートで1位を獲得しました。

いやー、これは本当に嬉しかったです……!(音楽を本気でやろうと思って)仕事を辞めたばかりのニートの頃に作った曲で、それが1位になって、本当によかったなって。作った当初はバンド的な構成をDTMでやりたくて、声ネタ=ヴォーカル、ドラム、ベース、シンセをひとりでやってみたんです。「自分の代表曲を作りたい」っていう気持ちで、めちゃくちゃ時間がかかって出来た曲で。この曲をSoundcloudに上げた時に、Seihoさんから「アルバム出そう」って声をかけてもらいました。

Seiho - I Feel RaveSeiho - I Feel Rave

――ちなみに、次の“Major”は、イントロの部分が“Sense Of Water”の後半と繋がっていますよね?他にも『Par』の楽曲にはアルバム内の他の曲と連動する要素を持った曲が結構あるように思えるんですが……これは偶然ですか?

僕はもともとヒップホップをやってたし、そういうのが好きなんです。だから“Major”は“Sense Of Water”と繋がっているし、“Sense Of Water”は“Sexual attraction”と繋がってる。このアルバムでは、そうやって色んな曲同士が繋がってるんですよ。だからこそ、ライヴを意識して作った“Woo Woo”だけちょっと浮いて聞こえるっていう。

――あー、なるほど!

それから、13曲目の“Glass City Billiards”はBUDDHAHOUSEと岡山とかにツアーしに行った時、最後の大阪の雑貨屋で見つけたキーホルダーに書いてあった文字から作った曲(と言いつつ、スマホで写真を見せてくれる)。この文字の並びがめっちゃいいなと思って(笑)。そこから連想して、ビリヤードを打つ時の「カッ」という音(=Billiards)と、ガラスの割れる音(=Glass)を使ったんです。それがやりたかったんで、むしろそれさえあれば何でもよかったです(笑)。

――(笑)次の“HERSHEY'S”はチョコですか?

そうですね。HERSHEY'Sのチョコレートソースを食べてたんですよ。“HERSHEY'S”か“Glass City Billiards”が最後に作った曲なんですけど、映画とかの終わりみたいな感じで、この2曲はアルバムの終わりをイメージしました。でも結局最後の曲にはならずに、ラストは“Sense Of Water”になって。これは、僕が初めて人に頼まれて作った曲なんですよ。「水のイメージで」と言われて作った曲で、アルバムに入った中でも一番古いものなんですけど、今聴いても新しい感じがすると思っていて。だから自分にとっての大切な曲のひとつとして、最後に収録することにしたんです。

PARKGOLF - Sense of water remixPARKGOLF - Sense of water remix

『Par』って
ラウンドごとの規定打数って意味ですよね
最初のアルバムとして基準になるものを
作ろうと思ったんです
そういう意味でこのアルバムは
『Par=基準』なんですよ

――こうして振り返ってもらうとよく分かりますが、アルバム『Par』はひとつのテーマやコンセプトを表現した作品ではなく、むしろPARKGOLFさんのこれまでや、アルバムを作っていたここ数年間の様々な出来事が反映されたものになっているように感じますね。

それはその通りですね。ラスト曲の“Sense Of Water”が一番最初に出来た曲で、その時はまだ仕事をしていて……。その後に仕事を辞めて“Kiss Me”や“Route 36”のような4曲が出来て。それから徐々にライヴが増えてきて、フロア向けのトラックとして“Woo Woo”を作って、それから北海道のみんなと『VANDCAMP』を作って……。でも、ライヴってDJと違って自分の曲をやるしかないんで、同じ曲を毎回やるじゃないですか。それで新しい曲を作ろうと思ったら、その反動でもっと静かな曲が出来てきて。だから、最終的には今回のタイミングでリリース出来たことが、すごくよかったのかなって思うんです。EPの時のマルチネも、今回のDay Tripperもそうで、自分が出したいなと思っていたレーベルから出せたこともそうですし。でも、改めて振り返ってみると、本当に長かったですね(笑)。

――『Par』というタイトルは、どうやって考えていったんでしょう?

最初は「~ハイツ」とか「ハイツ~」とか「シャトー~」とか、建物の名前にしようと思っていたんです。でも、それだとくっつける単語によって言葉の強さが変わってしまう。それにもっとインパクトが欲しいと思って、名前と繋がるゴルフ用語だし、『Par』ってめっちゃいいじゃん!という話になって。最後は……『Par』か『DATE SPOT』で悩んだんですよ。

――『DATE SPOT』ですか。

2.5Dで水野しずちゃん(ミスiD2015グランプリ)が「PARKGOLFって変な名前ですねえ。デートスポットみたい」って、意味わかんないことを言ってきて(笑)。でも『DATE SPOT』ってやばいな、って話になって候補に入れたんです。だから、これはきっとまた別のところで使うんじゃないかと思いますね(笑)。

――(笑)名前とのリンク以外に、ゴルフ用語の中で『Par』を選んだ理由はあったんですか? 「イーグル」とかではなく、『Par』である必然性ってあったのかな、ということなんですけど。

『Par』って、ラウンドごとの規定打数(規定打数ちょうど)って意味ですよね。今回のアルバムも、まずは自分だけで作った曲を収録して、最初のアルバムとして基準になるものを作ろうと思ったんです。だから、そういう意味でこのアルバムは『Par=基準』なんですよ。本編を基準にして色んな人にリミックスも作ってもらったし、あとあと考えると結構いいタイトルになったんじゃないかな、って思ってます(リミックス集には北海道の仲間に加えて、Carpainter、Hercelot、禁断の多数決、in the blue shirt、Licaxxxらが参加)。

in the blue shirt - toward morningin the blue shirt - toward morning

Licaxxx live @ The Room ShibuyaLicaxxx live @ The Room Shibuya

――ちなみに、そもそもPARKGOLFという名義にしたのはなぜだったんでしょう?

最初は本名でやってたんですよ。でも後輩ひとりとBUDDHAHOUSEと話していて、本名がちょっとかっこよすぎるから変えた方がいいんじゃないか、という話になったんです。たとえばBUDDHAHOUSEもNinja Drinks Wineもそうですけど、僕らの周りって結構みんな変な名前じゃないですか? そういう集団にしていこう、みたいな感じで(笑)。それで「~GOLFは?」って提案されたんですけど、ちょっと意味が分からないし、最初は「嫌だ」って言ってたんですよ。でも中二病みたいなめちゃくちゃ長い名前とかも挙げていくうちに、だんだん「~GOLF」っていう選択肢しかなくなってきたというか……ちょっとした「GOLFしばり」になってきたんです(笑)。そもそも僕は、ゴルフをやったことがないんですけどね……。

――そうだったんですか……!(笑)。

高校の時、団地の裏に打ちっぱなしのゴルフ場があって、そこでボール拾いのバイトをしたことはありました。でも、時給は1,000円ぐらいなのに、一日1時間しか働けないところだったんですよ。だから結局一日働いても1,000円だし、夜も遅いから寝坊したりして、怒られてすぐ辞めるっていう(笑)。それが唯一僕とゴルフとの関わりで……。でも、パークゴルフって北海道のスポーツでもあるんですよね。

――最後に、これからどんなアーティストになっていきたいと思っていますか。

もちろん、セールス的なことであったりとか、知名度みたいなものに関して色々とあるのは分かっていますけど、(日本や海外でのこれまでの経験を通して)自分がどこに行っても同じようなことをやっていたのも分かったし、音楽をやることに関して言えば、僕はみんな根本的にはあまり変わらないんじゃないかな、と思ってて。まだまだなんですけど、でもやってみれば何とかなるんだな、ということが分かったというか。だからこれからも曲を作って、プロデュースもさせてもらって、色々とやっていけたらいいなって思ってます。歌モノでもアルバムを一枚作りたいし、一度作曲からプロデュース/ミキシング/映像まで全部自分でやってみたりもしたい。自分でやってみないと、その工程がどうなってるのか分からないままですし。HIPHOPは前から好きなので、ラッパーの方とも曲作りがしたいです。次のアルバムでは今回よりもっと柔軟に制作して行きたいですね。