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トーフビーツのポジティヴ学。

tofubeats
POSITIVE

(初回限定盤のみCD+DVD)
ワーナーミュージック・ジャパン

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かねてから憧れていた人々を多数迎えたメジャー・デビュー作『First Album』を14年にリリースすると、続くEP『STAKEHOLDER』では改めて自分のパーソナルな部分を見つめ直したtofubeats。だとするなら、メジャー2枚目となるフル・アルバム『POSITIVE』は、まさにそのコインの裏側。これまで以上にJ-POPのど真ん中へと振り切れた1枚になった。

まず印象的なのは、今回は前作での路線から大きく踏み出して、より広い意味で共感できる/尊敬できるアーティストとのコラボレーションに乗り出していること。その結果、Dream AmiやKREVA、小室哲哉、岸田繁(くるり)など国内外から参加した豪華ゲストとの楽曲は、彼のパーソナルスペースを踏み出した開かれた雰囲気を獲得。そこにOkadada参加曲、マルチネ10周年に寄せたラスト曲“I Believe In You”といった仲間への視線があわさることで、本作ではメジャーを舞台に活動していく中で出会った新たな人々、活動をともにしてきたお馴染みの仲間たち、そして彼らとともに向き合った“J-POPとは何か?”の答えが、全編を通して鮮やかに表現されている。

それができるのは恐らく、名実ともに10年代を代表するトラックメイカーとなりつつある現在の状況ゆえ。「#でもこれからやねこれから1位よりもっと上に行こう」。ということで、今回は彼にとっての“ポジティヴ”や彼が思う“シリアス”を通して、最新作『POSITIVE』の魅力に迫ってみました。11月22日には、tofubeats“ディスコの神様”でヴォーカルを担当し、10月にベスト・アルバム「ザ・ベスト・オブ藤井隆 AUDIO VISUAL」を発表したばかりの藤井隆と、豪華ゲストを迎えたWリリースパーティーも開催! 神戸のニュータウンからはじまった彼の活躍は、ますます大きな舞台へと広がりつつあるようです。

最初は「はいはい、やればいいんでしょ」みたいな感じでした(笑)。
でも面白かったのが、いざタイトルにしてみたら、
作品自体がその言葉に引っ張られていったんですよね。
(作っているうちに)それにだんだん気付いたというか。

tofubeats - POSITIVE feat. Dream Amitofubeats - POSITIVE feat. Dream Ami

――そもそも、今回タイトルが『POSITIVE』になったのはなぜだったんですか?

本当に根も葉もない話なんですけど(笑)、一番最初に作った曲がめちゃくちゃ難産で、全然できなくて……。まさにこの部屋(ワーナー・ミュージックの会議室)で、「トーフくん、もうちょっとポジティヴになった方がいいよ」ってA&Rに言われたんです。それで、「そんなん言うてもできませんし……」って言ってたんですね(笑)。その時、それだけで(神戸から東京のオフィスに)呼ぶのもあれということで、Tamioさん(GraphersRock)とのデザインの会議も入れてくれてたんです。ちょうどセカンド・アルバムに向けての作業も始まるし、そろそろデザインのことも考えていきましょう、と。そこで「座組みだけ決めましょうか」と打ち合わせていたら、「タイトル決まってるの?」という話になって。「全然決まってないですし、昨日曲が出来てないから『ポジティヴになった方かいいよ』って言われたんですよ」って言ってたら、「あれ、『POSITIVE』って字面よくないですか?」という感じになったというか(笑)。それで、『POSITIVE』がひとまずの仮タイトルになったんですよ。

――はははは。

だから、その時は後で変えようと思ってて、「コードネーム:POSITIVE」みたいなイメージだったんです。そしたら、その後に「POSITIVEだから」ということでDream Amiさんの参加も決まったりして、結果的にタイトルが『POSITIVE』になっていったという。

――もともと頭を空っぽにして 「人生最高!」みたいに生きてる人ではないんじゃないかと感じていただけに、タイトルを聞いて面白いなぁと思っていたんです。

だからもう、皮肉たっぷりですよ(笑)。最初は「はいはい、やればいいんでしょ」みたいな感じで。でも面白かったのが、いざタイトルにしてみたら、“作品自体がその言葉に引っ張られていった”んですよね。(作っているうちに)それにだんだん気付いたというか。そもそも、去年は本当に忙しい中でやってみて、「忙しいのも考えものだな」「大変なのはよくないな」と思ったんですけど……。

――EP『STAKEHOLDER』の時にも、その話をしてくれていました。

tofubeats - STAKEHOLDERtofubeats - STAKEHOLDER

そうですね。だからこそ僕は『STAKEHOLDER』を作った部分があって。あれは自分でもすごく好きな作品なんですけど、それも含めて、今年はやっぱり、人生を軌道修正していこうみたいな気持ちがあったんです。そういう意味でも、結果的にこのタイトルがいい感じに作用してくれたと思うんです。僕は今年後厄なんで、今年で厄が終わるというのもありますし。(笑)

――実際、全編はいつになくポジティヴな曲が多い印象です。1曲目の“Dance & Dance”の冒頭のセリフ(=「今日はよろしくお願いします以外に言うことないです」)は、マルチネの10周年記念イベント『天』で録音したものですか?

そうです。こういうのは(『lost decade』『First Album』などtofubeats名義の作品から、dj newtown名義の作品まで)これまでもよくやってますけど、マスタリングの日に近いイベントがあったんで、そこで録ったということで。ひとつは単純に自分の思い出用なんですけど、もうひとつは、「言いたいこと何にもないんですけどね」みたいな感じがいいなと思って。たとえば『First Album』では「音楽最高~!」ってMeiちゃん(lyrical school)にお願いして言ってもらったんですけど、今回はいざ始まってみたら「あっ、そういうのないな」って気づいたというか(笑)。

lyrical school - ゆめであいたいねlyrical school - ゆめであいたいね

――流石に10周年だし、もっとエモーショナルになってるのかな、と思っていたんですけど、実際はそうでもなかったんですね。

全員すごい冷静でした。でも、僕らは始まる前からそうだろうなって気持ちがありましたよ。久しぶりに出る人はエモい気持ちになったとしても、少なくとも俺たちは冷静だろうな、って。あと、この曲はそもそも、『音力-ONCHIKA-』っていう関西の音楽番組のテーマソングとして作ったものなんです。

――確か、Twitter上のやりとりからテーマソング制作が決定したもので。

そうそう。だからもともとはスクラッチが(番組MCを務める)宇都宮まきさんの声になってるんです。それを差し替えて曲にする時に、「AメロとBメロを作らなきゃ」と思って、最初はどうしようかと色々考えたんですけど、「まぁ何でもいっか」と思って作ったら、いい感じになって。すべて完成したのは今回の曲の中で最後だったんですけど、歌詞とかも一番気に入ってる曲なんです。

――この曲を1曲目にしようというアイディアは最初からあったものなんですか。

むしろ、曲が出来上がった時に「1曲目しか入るところがないな」って思ったんです。最初はこんなに中身のある曲になるとは思ってなかったんで、自分でもびっくりした部分があって。音的には、今回は全編そうなんですけど、ねじったりしようみたいなことはあまり考えなかったですね。やっぱり『POSITIVE』なんで。話したり、作業をしたりしてても、「まぁでも、『POSITIVE』だから」って言うと、不思議とまとまるんですよ(笑)。今回のアルバムにはそれが随所に出てる部分があるというか。

――そして次の“POSITIVE”は、Dream Amiさんの参加曲。「まさかこの人とのコラボが見られるとは……!!」という感じで本当にテンションが上がりました。

『POSITIVE』というタイトルが決まってから、Dream Amiさんがラジオで「“ディスコの神様”が好き」って言ってるのを知って、それでオファーしてみようということになったんですよ。

Dream Ami (Dream / E-girls) -  ドレスを脱いだシンデレラDream Ami (Dream / E-girls) - ドレスを脱いだシンデレラ

tofubeats - ディスコの神様 feat.藤井隆tofubeats - ディスコの神様 feat.藤井隆

――いわゆる「J-POPの中で生きてきた女の子像」みたいなものってあると思うんですけど、この曲にはそれを強く感じたりしたんですよ。これまで以上にJ-POP的な曲というか。

そうだったら嬉しいです。やっぱり、ある意味遠い存在だからこそ『POSITIVE』って言ってもらえる、遠さゆえにこれができたというのはあると思うんですよ。これが、普段からよく知ってる人なら、もしかしたら歌ってもらえなかったかもしれないですし。Amiさんにしてもきっと、本当はこんなにポジティヴな人じゃないと思うんです。だから、お互い徹して“POSITIVE”になってるというか。Amiさんが多忙だったんでレコーディングには立ち会えなかったんですけど、録ってもらったヴォーカルを送ってもらって作業しました。分かってても言ったり書いたりできなかったことが、これぐらいの距離感の人だったら書けるんだ、ということも分かったし、すごくよかったです。あと、作り始めた頃は、サビは「ちょっと適当にやっても/きっと世界は発展」みたいな感じにしようと思ってたんですけど、最終的にはもうちょっと堅くなったんです。最初は「ご飯をおごってください」みたいな歌詞とかもサビに入ってたんで(笑)。

――(笑)続くOkadadaさんとの“T.D.M”についてはEP『STAKEHOLDER』の時に色々と話してもらったので省略させてもらうとして、KREVAさんとの“Too Many Girls”はどうだったんですか?

これはKREVAさんらしいというか、KREVAさんは、「曲を聴いてよかったらやってくれる」という感じだったんです。それでトラックを作っていたら、「Too Many Girls~、Too Many Girls~」っていうサビが浮かんだんですよ。それでサビだけ入ったトラックを送ったら、そこに歌詞をつけて返してくれて。

――KREVAさんも「Free Wi-fi」という言葉を使っていますよね。その辺りも含めて、テーマ性とキャラ立ちがはっきりした有機的なコラボになっていて。

そう、KREVAさんの方も気をつかってくださってるんですよね(笑)。これは昔やったPUNPEEさんとの“Les Aventuriers”(『lost decade』収録曲)みたいな感じのものが出来るなぁと思った曲で、「KREVAさんはモテてて、俺は全然モテなくて画像を保存してる(=どっちもある意味“Too Many Girls”)」みたいな感じにしたい、ぐらいのことは最初に送りました。

KREVA - 瞬間speechlessKREVA - 瞬間speechless

――その後シングル“STAKEHOLDER”があって、次が小室哲哉さんとの“Throw your laptop on the fire”ですね。

自分が言うのもおこがましい話なんですけど、去年の年末に対談をさせてもらった時に、とても慧眼な方で、脳のキレがすごいなって感じたんですよ。話しててもめちゃくちゃ面白いし、若い人とも対等に話してくれる方で、純粋に「この人とやってみたい」と思ったんです。小室さんとならどんな方向の曲も作れると思うんで、どうなるかわからないのも面白いなと思って。それで僕の方からデモを送ろうと思っていたら、実は「これ、トーフくんに合うと思うんだよね」って小室さんが先にデモを送ってきてくださったんです。完成版のイントロのところがそれなんですけど、本当に小室サウンドみたいなものが送られてきて。そうなると、後は大喜利になってきますよね。「どうしたら小室さんに面白がってもらえるかな」って考えて……小室さんが送ってくれた曲をぶったぎって別の曲を作って、それをもとのデモと繋げたんです。あとは、そこにOkadadaさんのシャウトと自分のヴォーカルを乗せて。そうしたら、小室さんも「これでOK」という感じになりました。

――何というか……いい意味で「わけ分かんないな」って感じの曲ですよね(笑)。

そうそう、僕もそこが好きなんです(笑)。

――お互いの世代のクラブ・ミュージックの要素が混ざり合っていて、これまでに聴いたことがない音になっているというか。途中、トラップっぽくなる瞬間もあって……。

小室さんのレイヴィーさもあって……。

――本当に意味がわからない(笑)。

(笑)小室さんも爆笑してたはずですよ。自分としては、PC Musicとかを聴いた時の感覚に似たものがあって、そこが面白いと思ったんです。「何やこれ?!」っていう(笑)。でもその「何やこれ?!」って、実はなかなか出来ないものだと思うんですよ。自分では、それがしっかりと出来た、そして笑えるっていうのがいいなと思いました。作る前は、「歌モノになるのかな」と思ってたんですけどね。“朝ダン(=朝が来るまで終わる事のないダンスを)”みたいなものをやるんだろうな、と。そうしたら結果的にこうなったのが超面白くて(笑)。それが出来るのって、総合格闘技的というか、プロデューサー的な人間同士だからですよね。KREVAさんとかもそうだと思いますけど、そういう人とやるのってやっぱり面白いな、と思いました。

Sophie - Just Like We Never Said GoodbyeSophie - Just Like We Never Said Goodbye

Life Sim - IDLLife Sim - IDL

tofubeats  - 朝が来るまで終わる事のないダンスをtofubeats - 朝が来るまで終わる事のないダンスを

――この曲は前作で言うところの“CAND¥¥¥LAND feat. LIZ”のような、アルバムの飛び道具的役割を果たしていますけど、当初はこういう曲になるとは思っていなかったわけですよね。作るうちに作品の全体像が変わっていったということですか。

確かに、全然想像してた通りにはならなかったと思いますね。最初は“STAKEHOLDER”辺りが“Throw your laptop on the fire”みたいな役割を担うと思ってたんですけど、自分でも「ああ、こうなるのか」っていう。やっぱりそこは、さっきも言ったように『POSITIVE』という言葉に引っ張られていったんです。だから、今回カラッとした曲が本当に多いと思うし、それに加えて機材を変えてリリースが甘いところを直せるようになったんで、それも影響してよりJ-POP的なものに寄った感じが出たというか。

tofubeatsの“POSITIVE”があるとき...

(“くりかえしのミュージック”の)歌詞に意味がないとは思ってなくて、
何かある、人が聴いてのりしろがある曲が出来たと思うんです。
僕にとってはむしろ「こっちの方がよっぽどシリアス」っていう。

――そして、次がややスキット風の“I know you”ですが……。

やっぱり、小室さんとの曲の後が荒れ野原みたいになってるんで……。

――「誰がこの後に出てもやりにくいDJセットの後」みたいになってるという(笑)。

(笑)それもあって、「はい、ここで一回休憩」みたいなことで。これは“POSITIVE”の試聴動画(tofubeatsヴォーカルVer.)の最後に流れる曲ですけど、ラジオのジングルみたいな面白インストを作って、「どこかに入れたいな」と思って、前から置いてたものだったんです。そこに歌を乗せて完成させました。次のスカイラー・スペンスとの“Without U”は、彼がホステス・エンタテインメントからリリースすることで窓口が出来たんで、ようやくやれるようになった部分もあって。たぶん無理だったと思いますけど(笑)、最初「ブラッド・オレンジとかもいいな」って言ってる中で、「セイント・ペプシ(スカイラー・スペンスの旧名義)いいよね」ってなって始まった曲。だから、(ライアン・ヘムズワースではなく)こっちのライアン(スカイラー・スペンスの本名)にお願いすることになって。四つ打ちの曲を3曲ぐらい投げたんですけど、ペプシが「これがいい」って言うんでこの曲に決まりました。トラック自体は実は『First Album』の時には既にあったものなんです。ずっと気に入ってて、でもメロが英語じゃないと合わないなと思ってて、今回満を持して使うことになったんですよ。肌感覚が近いというか、お互い「こういう感じね」みたいにすぐ分かり合える部分はありました。だから、すごく話が早かったですね。あとは彼のデータがちょっと雑かったんで、ポストプロダクションをしっかりやって完成させた感じです。

Skylar Spence - AffairsSkylar Spence - Affairs

Blood Orange - You're Not Good EnoughBlood Orange - You're Not Good Enough

――次の“すてきなメゾン”は『モチイエ女子』とのタイアップ曲。玉城ティナさんは、テイ・トウワさんの“Radio”のイメージがあったりして、今回最初に歌声を聴いた時に実は少し驚いたんですよ。こんなにしっかり歌い込む人なんだなぁと。

tofubeats - すてきなメゾン feat. 玉城ティナtofubeats - すてきなメゾン feat. 玉城ティナ

TOWA TEI - RADIO with Yukihiro Takahashi & Tina TamashiroTOWA TEI - RADIO with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro

まぁ、あの時はほとんど「Radio」しか言ってなかったですし(笑)。(コラボレーション決定前に)もらったデモが結構しっかり歌い込んでる感じで、僕はその声が「いいな」と思ったんです。あとは、曲のテーマとして、“お家へ帰ろう”とかもそうですけど、「家」で検索すると既に色んなものが作られてるじゃないですか? だから、「ホーム・スウィート・ホーム」みたいな使い古されたものになっちゃうとダメだと思って、ない言葉で/ない曲調でみせる、というのが意外と難しかった。その上で王道を歩かなきゃいけない部分もあったんで、結局シンプルに、音数が少なくなりましたね。本人はキーが低いんで歌いにくかったと思いますけど、このくらいの方がこの人にはいいんじゃないかな、と思ったんです。そういうちょっとぶっきらぼうな感じって、この歳にしか出来ないことだと思うんで。

――くるりの岸田さんが参加した“くりかえしのミュージック”はどうですか?

岸田さんは以前(“ロックンロール・ハネムーン”のリミキサーとして)起用してもらった時に、「何か全然タイプは違うねんけど、(レイ・)ハラカミくんを思い出すねんなぁ」って言ってくださって……。「そんなそんな」とか言いながら、実はめっちゃ嬉しい、みたいなことがあって(笑)。

――(笑)。

その時に、これもおこがましい話なんですけど、自分と気持ちが近い人なんだなって感じたんです。行ったり来たりですけど関西にいて、自分で完結させてるところもいいなぁと思ったし、僕の中でやっぱり、「変化をしようとしてる人はいいな」というのがあるんですよね。同じ目線を持ちつつ、でも変化を続けてる。それってすごく素敵やなぁって。この曲は、“初期くるり”というと陳腐な言い方になるかもしれないですけど、シンプルな感覚があると思うんです。あとは、“ロックンロール・ハネムーン”のリミックスも四つ打ちだったんで、そこから離れないでオリジナル曲にしたい、というのがあって。最初スタッフから、「あまり派手じゃないからもう1曲書いて」とも言われたんですけど、僕はこれがいいと思ったんです。で、「やっぱりこれがいいです」って言ってこの形になりました。岸田さんも「いい曲」って言ってくださって、すごく嬉しかったですね。

――“Dance&Dance”の冒頭にも繋がる話ですけど、「ただ繰り返すミュージックが鳴る」という歌詞もいいですよね。岸田さんの歌詞にもこういう方向性のものがたまにあると思うんですけど。

言ってみれば、“バラの花”とかもそういう部分があるんじゃないですか? “くりかえしのミュージック”は、ひゃーって聴ける曲がよかったっていうのもありつつ、かといってこの歌詞に意味がないとも僕は思ってなくて。「何かある」みたいな、人が聴いてのりしろがある曲が出来たかなと思うんです。

くるり - ばらの花くるり - ばらの花

――もともとtofubeatsさんは、そういうものが好きな人ですよね。シリアスなことばかり言うわけじゃない、それだけがシリアスの形じゃない、ということは昔からずっと大切にしてきたはずで。

そうなんですよ、僕にとってはむしろ「こっちの方がよっぽどシリアス」っていう。……で、次の“閑話休題”は、ルミネのウェブサイトで松岡モナちゃんが出演してる映像に曲つける仕事があって、その時に作って気に入ったんで置いてたループをスキットにしてたんです。“閑話休題”も使いたい言葉リストに入ってたんで、それでスッと出来た曲ですね。

――その使いたいリストには、結構な数の言葉があるんですか?

いや、アルバムごとに作ってる感じですね。今回だと『STAKEHOLDER』もまさにそうで。“Throw your laptop on the fire”とかも、最終的にはこうなってますけど、もともとは「“ラップトップ”とか使いたいな」みたいなところから来てるタイトルなんです。

――次の“別の人間”は、EGO-WRAPPIN'の中納良恵さん。これは一番しっとりした感じの曲で。確か以前、EGO-WRAPPIN'とはライヴで一緒になっていました。

中納良恵 - 濡れない雨中納良恵 - 濡れない雨

そうですね。その時には、もうオファーをしてたと思います。これは『STAKEHOLDER』の時にデモを作って、でも何か違うな……って感じで、アルバム用に取っておいた曲なんです。中納さんはもともと同じ関西の人っていうのもあって。今回だと岸田さんも、前のアルバムだとBONNIE PINKさんもそうですけど、僕にとってはそれって結構大事で、関西の人ってすごくやりやすいんですよ。みんなスッって入ってきてくれる。たとえばBONNIEさんだと、京都音博の時に差し入れを渡したら「トーフくんこれ、彼女と食べるやつちゃうん?」って言われる、みたいな(笑)。「最高やな、この人」って。この“別の人間”に関してはタタキになる曲があって、これを歌ってもらうなら中納さんがいい、という形でした。中納さんの声って、パワーがあると思うんですよ。だから、僕がPCで嘘のオケを作ってるんで、それを中納さんに歌ってもらうのがいいな、って思ったんですよね。

――「嘘のオケ」というのは、すごくtofubeatsさんらしい考え方のように思えますね。

やっぱり、勉強とかも楽器とかもそうですけど、僕はちゃんとした教育を受けてきてない/自分から受けてこなかったみたいなところがあって、そこにコンプレックスがあるんです。受験とかも、中学受験の時に自分が通ってた学校(私立のエスカレーター校)じゃないところに行ってたら中学受験が必要だったと思うし、そしたらもっと勉強したかもしれないし。ピアノにしても、半年とかで辞めなかったら……とか、そういうことが色々あって。で、後に自分が音楽を作ることになって、結局それをやらないといけなくなったりするとか。やっぱり、パソコンって加速させてくれるものではあるけど、速度でしかないとも思うんですよ。ウィキペディアとかもそうで、便利ですぐ出来るっぽくなれるけど、実は「本当の力をつけるのってすごく難しい」というのはずっと思ってて。たとえば、ネットで簡単にコンタクトは取れるけど、対面で話すのはまた違う、みたいなのと同じというか……(“おしえて検索”の歌詞を参照)。自分の場合、オファーする図太さはあるっていうのがちょっとアレなんですけど(笑)。

――とにかく、中納さんの人間としてのパワーをもらった、と。

でも、それは誰との曲もそうで、コラボするからにはそうじゃないと意味がないと思うんですよね。森高(千里)さんとの“Don’t Stop The Music”の頃からそれはずっと同じで。この曲は、最初はもっとポジティヴとはかけ離れた歌詞だったんで、そこをちょっとだけ変えました。だから、自分はポジティヴな感じもあると思ってて。中納さんは、「不思議な曲やなぁ」って言ってました(笑)。嘘のピアノ(=ピアノの音を再現した打ち込みの電子音)と中納さん自身のヴォーカルで曲が出来てるっていうのが、すごくいいって思ったんです。だから、本当はピアノを吹き込み直すことも出来たけど、結構悩んで、最終的には打ち込みで作ったピアノをそのまま残しました。

――そもそも、今回参加してくれた人々はそれぞれどんな人だったか、その雰囲気も教えてもらえると嬉しいんですが、どうでしょう?

Amiさんは実際に会ったこともあって、会ってみると天真爛漫な感じだし、ラジオとかを聴いてると「今日肩痛い~」みたいなことも言ってて、そういうのがいいなぁと思うんです。でも一方で、キャリアも長いですし、すごくプロフェッショナルな人でもある。

――Okadadaさんは、作品に向かう時の相棒のひとりという感じですか。

そうですね。そういう存在に近い人、という感じはあります。KREVAさんは、レコーディングの後に実際に会うとこが出来たんですけど、めっちゃ男前でした。「頑張れよ」って言ってくださって、ライヴも超かっこよかったし、オーラがすごくある方で。一方、小室さんは実際に会うと本当に気さくな方で、僕とも対等に話してくださるし、「この人、音楽すごい好きなんやろうなぁ」って。ペプシ(スカイラー・スペンス)とかは、どうなんですかね? 僕は相当変わり者じゃないかって思ってるんですけど(笑)。自分を超えるやばさというか、何か抱えてるものを感じる(笑)。玉城さんは、実際に会ってみるとものすごく気さくで、賢くて、素敵な子だな、と思いました。岸田さんとは、レコーディングの時に阪急電鉄(映画『阪急電車』などの舞台になった山の手の私鉄:岸田さんは鉄道好きで有名)を作ってるメーカーの話になって。阪急って神戸線と京都線で作ってるメーカーが違うらしいんですけど、僕はアルナ工機(現:アルナ車両株式会社)が全部作ってると思ってて、「え、京都線ってアルナじゃないんですか?」みたいな感じで(笑)。

――なんだそれ……。

(笑)その流れでお互いの地元の話になって、さらにその流れで「いやぁ、今はニュータウンも人口減ってるもんな」みたいな話になったりとか(笑)。岸田さんは趣味で各都道府県の人口をモニタリングするのが趣味だそうなんです。それで転居率とかをものすごい調べてて。「この辺は人口が減ってる、ここは増えてる」みたいな話を「完全に変わった人やな……」って思いながら聞いたりもして、本当に面白かったんですよ。何より、この人も本当に音楽が好きなんだろうなぁってすごく感じるんですよね。

――そして最後の“I Believe In You”はもともとマルチネレコーズの10周年を記念した書籍『MaltineBook:Maltine Records 2005 - 2015』用に作られた曲ですが、『天』でもライヴで笛を吹いていたのが印象的でした。

これはTomad社長からのオーダーで作った曲ですけど、何てオーダーされたかさっき思い出したところなんです(笑)。「『2.5次元っぽい』『都市っぽい』曲を作ってくれ」という話で。あとは10周年ということもあって、エモい曲にしたいというのはあったんで、やっぱり長尺のテクノがいいなと思って。この曲自体には、笛は入ってないんですけどね。でも笛を使おうと思ったのは、そういうものがないと、ライヴを観ててもつまんないだろうってことで。自分の場合、演奏がめっちゃうまいとかでもないんで、当然観て楽しんでもらえるようにしなきゃいけないって思ってて。デッドマウスの話もありますけど、僕らもお客さんへのマナーってあると思いますし。それで去年から笛をちょろちょろ吹いてたんですけど、これでギャラクシー2ギャラクシーみたいな、ハイテックジャズみたいなことが出来るなぁと思ったんです(笑)。あの笛ってデジタル楽器なんで、運指が組み換えられるんです。だから、簡単ではないけど、自分が飽きない程度の練習で何とかなる。アルバムにこういうのが入ってるっていいなと思うんで、僕は一番好きな曲ですね。

Galaxy 2 Galaxy - Hi-Tech Jazz @ METAMORPHOSE SPRING 12Galaxy 2 Galaxy - Hi-Tech Jazz @ METAMORPHOSE SPRING 12

tofubeatsの“POSITIVE”がないとき...

正確には「未来に期待“する”」っていう感じじゃないんです。
むしろ「未来に期待“したい”」っていうことで。
何なら「期待させてくれ!!」っていう感じなんですよ。

――それにしても、これまでの2枚と比べて、曲数がかなり少なくなっていますよね。これまでは18曲ぐらいの中でそれぞれ明確に役割分担されていたものが、今回はぎゅっと凝縮されて全13曲になっています。

これはやっぱり、『STAKEHOLDER』を作ったことが関係してるんだと思います。アルバム1枚で全部表現するんじゃなくて、EP『STAKEHOLDER』と『POSITIVE』を足すとちょうどそれぐらいの分量になるというか。……『STAKEHOLDER』を出した時に、自分の中で結構すっきりした感じがあったんです。あとは、これまでって「CDとして出すこと」「CDというメディアのすべてを使い切る」、みたいなことを大事にしてたんですけど、今ってその先のサブスクリプション型サービスとかが始まってますよね。それで僕はずっと「『荒野』が来てる」って今年の頭からずっと言ってるんですけど、そういう荒れ果てた感じもあるから、CDとしてじゃなくて「普通にアルバムとして考えよう」みたいな気持ちがあって。今回も、いつも通り最初は色々作ったんですけど、結局それを全部削ったんですよ。「今回はこれでいいや」って。

――なるほど。

だから、そういうところもポジティヴに引っ張られてるっていう。実は「やっぱり曲を足したい」と思って「あと一曲作ろう」と納期を伸ばしたりもしたんですけど、通して聴いて「やっぱりこれでいいな」と思ったんですよね。笛(=“I Believe In You”)の8分がなかったら45分ぐらいなんで、ほんとに自分でもビックリしたんですけど。でも、これはこれでいいアルバムになったな、という感覚があったんです。だから、自分自身が成長したな、っていうのは感じますね。

――『First Album』以降、J-POPの大物アーティストのリミックスや編曲を担当したことで、「J-POP的な感覚も分かってきて、その枠組みの中で自分の色も出せる」という気持ちも出てきたのかな、と思っていたんですが、この辺りはどうですか?

いや、むしろ自分としてはかなり頑張って(J-POPの方向に)アジャストした作品というイメージなんですよ。こんなに寄せていくのは、もうしばらくないんじゃないかというぐらい頑張った作品で。たとえばPerfumeさんとかもそうだと思うんですけど、自分たちの音楽を続けて、それをJ-POPにしていくというのが普通の方法だと思うんですけど、僕の場合は「J-POPっぽい曲」と「そうじゃない曲」しかないと思うんですよ。そして今回は、それが一番見える作品なんじゃないかと思うんですよね。

――ああ、なるほど。それから、ゲスト・アーティストの顔ぶれも、これまではずっと憧れてきた人にお願いしていくという方向で進めてきたわけですけど、今回はそこから変化が起きています。

そうですね。そういう方々を前作『First Album』で全部揃えてしまった部分があって……それで、今回はこれまではそれほど関係値が高くなかった方々にもお願いをすることになったんです。

――でもその結果、作品としても間口が大きく広がった感覚がすごくありますよね。

そうそう。ファースト・アルバムを作ってみて、意外と「もうやることねえな」って思った部分もあって(笑)。その後『STAKEHOLDER』を出して、自分的にはすごく満足のいく作品になったんですけど、数的にはやっぱり予想した枚数ぐらいしか出なくて。ちょうどその時に『POSITIVE』に参加してくださった人たちが決まりはじめて、それでこういうアルバムになっていったんです。ありがたいことにずっと忙しいは忙しかったんですけど、ある程度そこをちゃんと見直したので、去年よりはしっかり作れたかなと思いますね。あと、去年メジャーで作品を出すにあたって、「やってもやらなくてもいいけど、やった方がいいのかな」みたいなのを一度全部やってみたことで、やらなくていいことが分かってきたというか。曲数をマックスにすることもそうで、僕はそれが意味のあることだと思ってたんですけど、「別にこれはいいかな」とか。そういうことって、自分でやってみないと分からないじゃないですか。で、それを実践したことで、少しずつ学びがあったんです。

――その上、ここまで世界観を広げながらも、全編を聴いてみるとやっぱりtofubeatsという人の音楽になっているのが素晴らしいと思うんですよ。どんな要素を取り入れても自分自身の中心からブレていないというか、僕は「GPSのようなものがついてるんじゃないか」と思っているんですけど。

それはやっぱり、自分自身そうなりたいですし、そういう人が好きだってことなんだと思いますね。そういう存在が僕にとっては、BONNIEさんであったり、テイさんやパラ・ワンであったりするということで。僕自身は「的(まと)」って言ってるんですけど、あの人たちの音楽って聴いててそれを思うんですよね。今回のアルバムで言っても、“POSITIVE”と“I Believe In You”は全然違うタイプの曲ですけど……でも、最終的に行きたい場所は一緒なんです。そういう話を分かってくれるかくれないかというのが、僕にとってミュージシャンとして友達になれるかなれないかというところで。それこそハーバートとかもそうですよね。あの人とかはもう……。

――変なことばっかりやっていますし(笑)。

(笑)でも、あの人もそうですけど、(作品ごとに)曲調は違うけど、自分の中で「曲作りとはこういうもの」っていう感覚はちゃんとある。やっぱりそういう人って強いなと思うし、その人の音楽って、何を作っても“その人の曲”になると思うんです。僕の場合はあんなに書き出せるほど決まってないんですけど、たぶん自分の中にも何かそういうものがあって、曲を沢山作ることで、その分かってない部分が分かってくるというか。自分の場合、だから沢山曲を作ってるところもあるんだと思いますね。

tofubeats - 衣替え feat. BONNIE PINKtofubeats - 衣替え feat. BONNIE PINK

Para One - Every Little Thing (feat. Irfane & Teki Latex)Para One - Every Little Thing (feat. Irfane & Teki Latex)

――沢山作ることで、それが何かもっと分かりたい、という?

そうそう。昨日ちょうどOkadadaさんと話してた時に、「トーフはちょっとカウンセリング型の気がある」って言われたんですよ。「自分の曲を聴くことがカウンセリングになってる」って。それって結局そういうことですよね。

――今の時点で分かりはじめている自分の「的(まと)」は、どんなものだと言えそうですか。

それはやっぱり……「メジャーなものよりマイナーなコード進行のもの」だったり、「嬉しい感じより、哀しい感じがするものがどっちかっていうと好き」みたいなことだったりとか。あとは手触りでいうと、めちゃくちゃ角が立ってるものよりも、丸い、ある程度削ってあるようなものが好きだったりとか。そういうものだっていうのは感じますよね。

――じゃあ、今回はそういう自分の人間性を『POSITIVE』という作品として見せよう、みたいなことを意識した部分もあったんですかね? 「いえーいポジティヴ!」みたいなことではなくて、「ポジティヴなこともネガティヴなこともあって、でもそれも含めてこそのポジティヴなんだ」という。

たとえば、「きみおかしいよね」って言われてる人って、自分のことをおかしいって思ってない、みたいなのってあるじゃないですか。それと一緒で、「ポジティヴだね」って言われる人って、自分のことをポジティヴだと思ってない、みたいなところもあるというか(笑)。あとは、僕は縁起とかってすごく好きなんで、“No.1”を作った時も、「“No.1”っていう曲を作ったらそうなれるんじゃないか」みたいな発想だったわけです。だから今回だってそうなんですよ。「もしかして『POSITIVE』っていうタイトルにしたら……」みたいな(笑)。

tofubeats - No.1 feat.G.RINAtofubeats - No.1 feat.G.RINA

――なるほど(笑)。

さっきも言いましたけど、『POSITIVE』っていうアルバムを作ることで、出来上がった曲をみんなに聴かせた時に「ああ、いいね。『POSITIVE』だね」みたいになったりとかして、ポジティヴに支配されていく部分って本当にあるんですよね。もちろん、ちょっと“考えなしになる”っていう部分もあるにはあったんですけど、今回に関してはそれでよかったと思ってて。あとは、『STAKEHOLDER』があったんで、絶対にこれの逆サイドを作らなきゃいけない、という当初のテーマもあった。だから、今回は『POSITIVE』ぐらい言っておいてよかったのかな、って思うんですよね。

――その象徴的なものとして、今作には「未来には期待したいし」という歌詞も登場します。今tofubeatsさんが未来に期待していることはどんなことかを最後に教えてください。

でも、これって正確には未来に期待“する”っていう感じじゃないんですよ。未来に期待“したい”っていうことで。だから、何なら「期待させてくれ!」っていう感じなんです。これ、本当にそうなんですよ(笑)。だから“POSITIVE”の初期の頃の歌詞は「ご飯をおごってください/未来には期待したいし」だったわけで。そういうシンプルな話で、『POSITIVE』というタイトルにしても、結局は「俺がポジティヴになりたい」っていうことなんです。なったら得、というのは自分でも分かってるし、でもなれないし。だから、「させてくれ期待」っていう話なんですよね(笑)。つまり、このアルバムは「“ポジティヴな方がどっちかっていうと得”ということが分かった」っていうアルバムなんです。

――はははは。めちゃくちゃtofubeatsさんらしい話ですね。

「そこまでは分かった」っていう(笑)。あとはこの作品を出すことで、日本経済にも期待させてくれたら嬉しいですし……!

――「日本経済にも期待したいし」(笑)。

はい、「日本経済も俺に期待させてくれ!」っていう(笑)。

――(笑)とにかく、作り終わった今の感覚としては、ポジティヴな雰囲気を感じているということは間違いなさそうですか。

それはもう、どっちかっていうと(その気持ちが)あるなぁというか。もちろんめちゃくちゃ不安でもありますけど、そういう感覚はあるし、今回作ってみてそこが一番ありがたかったな、と思いますね。