――Sugar's Campaignの音楽はよく「都市型ポップ」と形容されますが、そこで描かれる「都市」からは、シティ・ポップの洗練された感じとは違って、もっと無邪気で子供っぽいものを感じます。そもそも、みなさんの記憶の中で一番古い「都市」とか「街」のイメージはどんなものなんですか?
Avec Avec
(スラスラと)まず、僕の中であるのは……。
Seiho
(Avec Avecに向かっていたずらっぽく)ないやろ、絶対。
Avec Avec
ないです。
――(笑)。
Avec Avec
いや、ありますよ(笑)。子供の頃に覚えてるのは、幼稚園ぐらいの時の、梅田~京橋辺りの風景ですね。僕は小さい頃住んでたのが東大阪なんですけど、全然都会じゃなくて工場地帯みたいなところだったんです。そこから梅田まで出て、母親に連れられて映画を観に行ったりして。その帰り道の、夜の電車や京橋のビルの風景が印象に残ってますね。
――たとえば、“おしえて”のMVみたいな感じですか。
Avec Avec
いや、そんなに綺麗じゃなくて、もっと汚くてガスがほわーっとある……ネオン街で、ラブホがいっぱいあるイメージで。サイバーパンクな雰囲気というか、汚くて、ギラギラしてる感じですね。僕の中での都会って、人が多いというよりは光がいっぱいあるとか、そんなイメージなんです。
――Seihoさんやakioさんはどうですか?
Seiho
僕はもともと都会っ子なんで。下町は下町なんですけど、梅田まで自転車で5分ぐらいだし、徒歩圏内にその辺(大阪の中心地)があったんです。だから都会を感じたのって東京に来るまでなかったですね。初めて1人で東京に来たのは高校3年か大学の1回生ぐらいにライヴで呼んでもらった時なんですけど、その夜行バスで行った東京とかですね。
akio
僕は小さい時に大阪に出る機会もなかったし、地元枚方の、ビブレとかのショッピング・モールに行って「これが都会か」って思い込んでました。それから中学や高校の頃に大阪に出たり、東京に来たりして、「もっと都会があったんや」って発見していった感じで。
Avec Avec
確かに、東京に初めて来た時とか、都会っていうより外国みたいな印象があった(笑)。あと、僕は『めぞん一刻』みたいなアニメも好きで、そういう作品の中の夜の街の風景は大きかったですね。それから、母親がUSENで働いてたんで、家にテープがいっぱいあったんですよ。昔のテープって絵葉書とかが付いてたと思うんですけど、そこに街の景色が載ってて、その映像を見て「これ凄いな」って思ったりして。しかも、そこに入ってる曲って80’sポップスみたいなものが多かったじゃないですか? そういうものを通して「これが都会か~」って。自分の中にはそれと、最初に言った京橋の風景みたいなものがずっとあるんですよ。
――Sugar's Campaignの場合はAvec Avecさんが作曲する割合が多いですけど、それこそ『めぞん一刻』であるとか『気まぐれオレンジ☆ロード』のような、日本がまだバブリーだった時代の作品を連想させるものが多い印象です。
Seiho
狙って作ってるわけではないんですけどね。これはノスタルジーとも違うんですけど、そういうものが原体験としてあって、どうしてもそこに引っかかってしまうっていうか。
Avec Avec
僕の中の整理された街のイメージっていうのが、そういうものなんです。
――そういう作品にどんな魅力を感じたんですか?
Avec Avec
ひとつは、主題歌が大人びてたんですよ。『美味しんぼ』のOP/EDとかも、「ビルがあって、ワイングラスがあって」……みたいな感じじゃないですか(『美味しんぼ』のOPテーマは中村由真“Dang Dang 気になる”、EDテーマは同じく中村由真の“LINE”)。当時、J-POPの流行としてもブラック・コンテンポラリーみたいなものが流行っていたし、そういうリズムを持ったポップスがアニメの主題歌にもなってたりして。
Seiho
大人が観るアニメが成熟して、そういうものを子供も観るような時代だったんですよね。87年~95年ぐらいまで。『シティーハンター』とかもそうなんですけど、あの感じがたぶん、僕らが混ざって覚えてる記憶なんです。あと、自分の場合は、小さい時に観たアルバ・ノトの展示会。あれを観た時は衝撃的で、自分の中の都市のイメージはそれが大きいと思います。今まで都会に住んでたけど、あそこまで極端に人工的なものって観たことなかったから。それにハマって、池田亮司(Ryoji Ikeda)の演劇とかを観に行くようになって……それが11~12歳の頃だと思うんですけど、僕の中での原体験としてかなり大きかったですね。
akio
僕は文化的なことは言えないんですけど、友達と中学校の頃に自転車で道頓堀とかに行って『これが都会か』って感じたりして。
Seiho
確かに、道頓堀は都会感あるよな。
akio
「これ、自分たちだけで来たらあかんとこなんじゃないか」みたいな(笑)。
Seiho
ああ、「都会に行く」ってちょっと悪いことしてるような感覚はあったかも。僕も当時好きだった子と難波まで歩いて行ったことがあるんですけど、中学の時とかって、めっちゃ早く会いたいでしょ。もう朝から会いたい(笑)。それで、朝5時ぐらいから、電車もないから歩いて難波まで行ったんです。そうすると、5時の歓楽街の感じってあるじゃないですか? ホストがたまってるような。僕はそれが好きだったんですよね。大阪に住んでますって感じがして。
Avec Avec
大阪に住んでるとそういう露悪感みたいなものに触れる部分があるんです。さっき話したラブホのネオン街とか、道頓堀のごちゃっとした感じとか、京橋の感じとか、そういうものが都会のイメージとして凄くある。
――でもSugar's Campaignの音楽って、むしろそれとはかなり違うものになっていますよね?
Avec Avec
それは、僕らがそういう都会をコンセプトにしてないからです。そもそも、都市っぽいとか、シティ感みたいなのって、周りの人から言われることで、自分達はあまり意識してないんですよ。僕ら、都会っぽくしようと思って曲を作ったりは全くしていないし。「ホームグラウンド感」とか「のどか」みたいなイメージの方が強い。
――都市は都市でも「日常系」という感じがしますよね。そこで暮らしてる人の、普段の生活が見える感じというか。
Seiho
ああー、その方が近いかも。僕のソロとかの方が都会っぽいと思うし。かと言ってtofuくん(tofubeats)が言ってるニュータウンの感じとかともちょっと違うんですよね、もうちょっと架空のものが多くて。何て言うか……僕はシュガーズの音楽って「あるある」だと思うんですよ。オマージュ映画みたいに、「これが入ってたらこれよね」を構築していった結果、シュガーズっぽさになってるというか。エモーションよりも、むしろ「これでこれは……ある」「これでこれは……ない」って、「あるかないか」だけで考えてる部分がある。
Avec Avec
他のポップスはエモーションを第一にしているけど、シュガーズはそうじゃないって話?
Seiho
そうそう。ポップスって基本的には個人的なものだけど、シュガーズの場合は「みんなが知ってるあれ」みたいな感覚。みんなの中にある何かを想起させる装置になってるというか。
――そういえば、シュガーズのレコーディングではakioさんのヴォーカルの感情が出過ぎていないテイクが採用される、という話もありますね。
akio
レコーディングの時はあまり自分のエモを出しすぎずに、フラットに歌って欲しいって言われますね。シュガーズでは昔からやってることなんですけど、実際、そっちの方が合うんですよ。
Avec Avec
もちろん、エモさを一切出さないっていう意味ではないんです。でも、そのバランスをコントロールするというか。自由に歌うとヴォーカリストが気持ちいい歌い方のエモさが出てしまうから、そこを調整したいということなんですよ。
――個人的にし過ぎないことで、みんなに共感できるものにする、ということですか?
Seiho
ぐるっと回って辿り着いてるんで説明が難しいんですけど、ポップスは超個人的だからこそ共感できるっていうのは、もちろんあるんです。でも、その時に歌い手個人のエモーショナルなものが見え過ぎると、その瞬間に(その曲が)「対誰か」になってしまう。で、それってもう他の人から見て「私のこと歌ってる」ではないじゃないですか。だから、シュガーズの場合は、そうなってないことが重要だと思うんですよ。僕はそこがいいところじゃないかな、って思ってて。
――ああ、なるほど。
Avec Avec
特定の人のことを歌ってないから、「本を見る」とかに近い感覚というか。
Seiho
そもそも、僕らの話し方とかもそうなんです。シュガーズって自分たちのことを話す時に自分たちのことじゃないように話すところがあって。でも、本人たちが「シュガーズのよさは~」って言ってるのって、普通に考えるとどこから話してるのかよくわからない(笑)。
Avec Avec
「誰やねん!」っていう。
akio
なんか、話すとそうなるよな(笑)。
Seiho
他のインタビューを読んでても思ったんですけど、自分たち自身を上から見てる感じがあるというか。それってシュガーズにとって結構重要なポイントなんですよね。