Lone - Aurora Northern Quarter
――2人とも今回がフジロック初出演ということで、まずは実際に会場に来てみての感想を教えてもらえますか?
Seiho 僕はおとつい、昨日と別のイベント出演があったんで、会場に着いたのが今日の夕方で。まだFKA(ツイッグス)しか観れてないんですよ。
LONE 僕も同じで全然観れてないんだ(笑)。会場に着いて、ステージを確認してちょっとその辺を歩いたぐらいで。でも、フジロックのことは前から知っていて、スクエアプッシャーはここでの01年のライヴ映像をYouTubeの公式チャンネルで公開してた。ここでレコーディングもしているよね(『Do You Know Squarepusher』ディスク2収録の、同日のライヴ音源のこと)。だからフジロックのことは知っていたし、映像で観たこともあったんだ。
Squarepusher - Do You Know Squarepusher (live)
――今23時を過ぎたところなのでLoneもSeihoさんもライヴ直前という感じですが、今日のステージはそれぞれどんなものになりそうですか?
Seiho 僕はちょっと踊れるような感じにしようと思ってますね。普段は45分ぐらいが多いんですけど、60分のセットとあって今日はなるべく踊らせるようにしたいというのと、あとは……牛乳の早飲みですね。
LONE (驚きながら爆笑)。
――噂によると、直前の『無音フェス』でも牛乳を飲んだんですよね?(笑)。
Seiho (自分でも爆笑しながら)そうなんですよ。最近覚えたんで、やろうと思ってて。
LONE Seihoが牛乳を飲むなら、僕はそれをワインでやりたいね。
全員 はははは!
LONE でも(牛乳とワインは)一緒にしちゃダメだ。Seihoが牛乳で僕がワイン(笑)。セットに関して言うと、僕もみんなを踊らせるようなものにしようと思ってるよ。
――そもそも、2人ともライヴでの魅せ方についてはかなり意識的な人というイメージがあります。LONEはアルバムのアートワークを手掛けているトム(Konx-om-Pax)がVJを担当するセットでヴィジュアル面を強化していますし、Seihoさんも昔取材で話してくれたこともあったんですが、衣装やパフォーマンスについてかなり考えている人だと思います。ライヴではどんなことを意識しているんですか?
Seiho 僕はDJスタイルじゃない(その場で演奏する“ライヴ”)こともあって、空間を綺麗に仕上げるというよりも、ステージを作り上げるという感覚なんです。今日みたいな場所だったら自分のことを知らないお客さんもたくさんいると思うんで、なるべくスムーズに繋ぎながら、その中で自分の世界をどうやって出していくか、みたいなことを考えますね。
LONE 僕の場合は、作品の世界を出来るだけ正確にステージ上で再現したいって思うんだ。トムを呼んでVJをしてもらう理由も、ヴィジュアルにそれを助けてもらいたい、という気持ちがあるからで。だから、あくまでライヴの演出は自分の作品の世界を正確に伝える手段のひとつという感覚で、そういう部分を一番大切にしているね。
Seiho 僕も今日はVJの方にお願いしていて、流行りの要素を取り入れたものを色々と流してもらうんですけど、一方で今は他のものに左右されるんじゃなくて、自分の世界で収まるような形にしたいという気持ちもあるんです。もちろん、これからは、そこからもっと広げていきたいなと思ってもいるんですけど。
――なるほど。そうやってライヴを作っていく際、見本になるような人はいますか?
Seiho 僕は(Oneohtrix Point Neverが主宰の米Softwareなどから作品をリリースする)ボルチモアのコ・ラですね。(Magical Mistakes, And Vice Versaとアメリカ遠征した14年に)ボルチモアでライヴを観た時も、(13年の)ジャパン・ツアーで彼が日本に来て共演した時もそうなんですけど、彼はライヴ中にティッシュを撒いたり、果物を食べたりしていて。ボルチモアでは、照明を全部真っ暗にして自分だけに照明を当てて、一番盛り上がるところでそれを消したりしてたんです。ガッと盛り上がる時に全部消す、みたいな感じで(笑)。
LONE ははは。
Seiho その時コ・ラとは、「こういうの面白いよね」「でもこういうのは違うよね」ってことを色々話し合うことも出来て、それは結構大きかったですね。
――そうやって、ライヴの中にフックを作っていくということですか。
Seiho いや、フックというよりは……たとえば、照明や音を大きくして会場を盛り上げるんじゃなくて、もっと個人で出来るものを大切にしたいということなんですよ。
――ああ、じゃあ方向性としてはFKAツイッグスのステージと同じような感覚ですね。
Seiho ああー、そうですね。
――LONEはどうでしょう?
LONE 僕もそういうのは面白い方法のひとつだと思うよ。コ・ラの話で思い出したけど、オウテカのセットも終始真っ暗だったりするよね(彼らのセットは客電もステージの照明もすべて落とした暗闇で行なわれる)。自分のイマジネーションを頼りにするのは素晴らしい方法だ。あとは、今日出ていたハドソン・モホークみたいに、人数を増やしてやるというのも効果的だと思う。彼はもともと自分ひとりでセットをこなしていたけど、今やライヴ・バンドみたいになってる。
Hudson Mohawke - Warriors ft. Ruckazoid, Devaeux
――そもそも、エレクトロニック・ミュージックのライヴって凄く難しいですよね。やり方によっては、PCの前にただ立っているだけになる可能性もあるわけで。
LONE そう、だから自分にとってはヴィジュアル要素が大事なんだ。僕はSeihoみたいに自分自身がパフォーマーになることは出来ないし……。
Seiho いやいや(笑)。
LONE 実際、他の要素がないと僕にはみんなを楽しませることは難しいんだよ(笑)。でもVJのトムはすごく才能のある人だから、彼の映像と合せて表現することで、より観客を盛り上げることが出来ると思ったんだ。
Lone (ft Konx-om-Pax) Boiler Room Moscow Live/AV Set
――ライヴを工夫していく中での考え方としては、ある意味正反対のベクトルなのかもしれないですね。Seihoさんは、LONEの音楽の魅力ってどういうところだと思いますか?
Seiho レーベル仲間のAnd Vice VersaがLONEのことをすごく好きで、彼がよく言ってるのは……。これ、難しいなぁ(笑)。『LONEがやるからいい』っていう要素が他よりある人だと思うんですよ。たとえば、最終的に「ここに行く」という目的地みたいなものがあったとして、そこに至る順番って大事じゃないですか?
――人によって行き方が違うということですね。
Seiho そうそう。トレンドを取って行ったり、流行っているものを探っていったりする人もいるけど、この人の場合はそうじゃないから、「LONEならきっとこうするよね」ってことがみんなで共有できるというか。たとえば最近の90年代のUKっぽいところでも「LONEだったらこれよね」ってことが分かると思うんです。そういうところが魅力じゃないかな、と僕は思ってて。
LONE (肩を組んで感謝の気持ちを表わす)それは嬉しいな。僕の場合は、日本の音楽をあまり聴いたことがなくて……というか、そもそも普段から他の人の音楽自体をあまり聴かないんだよ。でも、Seihoが才能のある人だというのは分かる。だからこの後ライヴが観られるのがすごく楽しみなんだ。僕はいつも音楽作りに集中してて、自分がその時に作っている曲ばかりを聴いていて。音楽を聴くといっても、昔の曲をたまに聴くぐらいなんだよ。
――一方のSeihoさんは色んな音楽を聴くタイプですね。
Seiho そうですね。僕は結構色々聴くタイプで。だからさっきの話で言うと、やっぱり彼(LONE)には自分のタイムラインがあるってことだと思うんですよね。それがさっき言っていたことにも繋がるのかな、と。
LONE うん、まさにその通りだと思うな。
――(LONEに)あと、Seihoさんの場合は音楽以外のものごとに対するアンテナも鋭くて、カルチャー全般を通して色んなものを見ている感じがする人なんですよ。
LONE ああ、なるほどね!
Seiho まぁ、僕はそういうのが好きというか、もともと外に出て新しいものを発見するのが好きなんです。だからそういう感じになるんだと思いますね(笑)。
――せっかくなので、お互い訊いてみたいことはありますか?
Seiho 僕はやっぱり、使ってる機材が気になる。
LONE 本当に基本的なものしか使っていないよ?
Seiho Abletonとか?
LONE いや、Abletonはあまり好きじゃないんだ。僕はFL Studioを使ってて、後はスマートフォンとか(笑)、マイクとか……枝を切る音、昔のサンプル、シンセサイザーとか……それくらいだね。
Seiho シンセサイザーは何を使ってるの?
LONE NovationとDX7だよ。Seihoは……どれくらい早く牛乳を飲めるの?(笑)
――そこ戻っちゃいますか(笑)。
2人 はははは。
Seiho (大きな)ステージでやるのは初めてなんで……今日、頑張る(笑)。
LONE あと、僕は音楽が作られる過程よりも、「その人がなぜ音楽を作るのか?」ということに興味がある。Seihoはどんなことが表現したくて音楽を作っているのかな?
Seiho 僕の場合は、自分の頭の中に表現したいイメージがあって、それを彫刻みたいに音楽の中から削り出していく作業というか、その感覚がすごく好きで。
LONE ああ……(深く頷く)。
Seiho 曲作りって音を出していくから、中には絵を描くように作っていく人もいるわけですよね。でも自分の場合は、彫刻みたいな感覚であるとか、空間を演出したいというのが一番で。音楽を聴いた時に、その彫刻が見えたり、どんな部屋で聴いているのか、ということを想像させるようなものにしたい。自分にとってはそういうことというか。
LONE それ、僕の場合もまったく同じだよ!!
Seiho 本当に?!
LONE ああ、本当に。
Seiho うわぁ、この話めっちゃ嬉しい!(笑)。
LONE そうやって掘って行けば行くほど、最初は漠然としたイメージだったものが、どんどんはっきりした形になっていくんだよね。
Seiho そうそう! まさにそんな感じ。
――そうやって掘っていく前、最初にイメージするものはどんな風に思いつくんですか?
Seiho 僕は、最初にイメージしてるのは石みたいなものしかないですけど、テクスチャーというよりも、どこの角度に光が当たってるか、それがどこに置かれてるか、みたいなことから入るんですよ。
――それを削っていく、と。
Seiho そうですね。レイヤーをいっぱい作って、要らないところをそぎ落としていくんです。
LONE 僕も基本は同じだけど、まず思いつくのはシンプルなコードやメロディーだね。自分の場合はその時点ではすごく簡潔なものなんだけど、それが掘っていくうちに全く違う複雑なものになっていくイメージ。頭の中でチューニングしてるような感覚というか……。自分でもその過程がどうなってるかは分からないけど、その後リズムがくっついてくるんだ。
――細かなニュアンスとしては少し違う部分もあるということですか。とても面白いです。今回、英日のミュージシャン同士で話すという体験自体はどうでしたか?
LONE いやぁ、素晴らしい体験になったよ。僕らは住んでいるとろはすごく離れているのに、同じアイディアをシェアしてる。そうやって言語を越えて共有することが出来るのが音楽の素晴らしいところだと思うし、それってとても美しいことだと思うんだ。
Seiho 僕もまったく同じ気持ちですね。Twitterでももっと絡んでいくようにします(笑)。
LONE (笑)正直言って今、泣きそうなぐらい感動してるんだ……。僕らは生まれ育った環境も、性格も、価値観も全然違う。異なる言語圏で生活していて、こうして実際に会って話している時でさえ(通訳さんを介さず)直接コミュニケーションすることが難しいというのにね。そんな2人がひとたび音楽のことになると、実は同じひとつのアイディアをシェアしているなんて。本当に素晴らしいことだよ。
――最後に、それぞれのこれからについて、漠然と考えていることでもいいので教えてください。
Seiho 僕は今まで何でも自分で決めることが多かったんですけど、もっと他の人に決めてもらうことを増やそうかな、とは思ってますね。もっと色んな人にアドバイスをもらったりとか。
――それって結構大きな意識の変化のようにも感じられますね。
LONE でも、すごく大切なことだと思う。僕もずっとひとりで作業しているけど、「これはすごくいい」とか「これはよくない」とか、他の人の意見ってとても大事だと思うから。そして僕が考えているのは、とにかく作るたびにどんどん音楽を進化させていきたいってこと。そうやって作る音楽というのは必ず自分の中から出てきているものだから、Seihoが言ったみたいに人の意見を取り入れても、結局は自分だけの音楽になるって思うんだよね。
――方法は違っていても、やはり大切にしていることは同じ、ということですね。
LONE 音楽に限らず、料理でも、絵画でも、文章でも何でもその可能性はあるんだ。すべて自分の中から出てきているもの、という意味では同じだから。まぁ、不思議な話だけどね(笑)。そしてこうなる理由って、きっと誰にも分からないんじゃないかな。